先日、兵庫県尼崎市の「旧かんなみ新地」の前を久しぶりに通った。当連載でも度々取材してきた、いわゆる「ちょんの間」が並んでいた風俗街で、2011年に閉鎖された。今年1月から始まった解体工事でかつての置き屋街は半分ほど取り壊されていた。更地にされた区画は広場などとして活用されるという。
元風俗街だった場所の再生に以前から興味を持っている。今年3月に訪れた沖縄・宜野湾市のかつての赤線地帯「旧真栄原社交街」では、数十軒あった置き屋の半数以上が取り壊されていた。
ここは「旧かんなみ新地」と同じく11年に一斉閉鎖され、その後はゴーストタウンのような状態が続いていた。一部では会社の倉庫などに改築された置き屋もあったが、再開発が試みられたものの、何度も失敗してきた旧置き屋街だ。
一度風俗街のイメージがついた場所の再開発はなかなか難しい。また、この場所の再開発が失敗した大きな理由は、置き屋の一部が個人の所有物だったからだ。ここは、09年から始まった警察や地元団体による浄化活動の結果、全ての置き屋が摘発され、何人ものオーナーが逮捕された。
当時の置き屋は、1軒約200万円で購入できたといわれ、多くのケースでは置き屋の所有者と店のオーナーは同一人物であった。ほとんどのオーナーが逮捕されるとともに置き屋を手放した。
一斉閉鎖後、こうした元置き屋に住んでいたという女性に会ったことがある。彼女は知り合いの友達と一緒に、家賃3万円で借りていたという。
2階建ての物件で部屋は2つ。「ちょんの間」で働いていた女の子だけが利用できたシャワーとトイレがあり、さらに1階部分にはかつて料亭やスナックとして営業していた名残のキッチンもあった。ベッドも置き屋で使われていたものだったが、「使えるので問題なかった。ベッドの下から新品のローションが3本出てきた」と笑っていた。
そんな彼女の話を聞いて思ったのだが、いっそのことこうしたかつての置き屋をゲストハウスとして再利用したらどうだろう? 風俗街のイメージが残っていても気にするのは地元の人だけで、旅行者はそこまで気にしないと思うのだ。むしろ面白がるかもしれない。
前出の「旧かんなみ新地」でも尼崎市は新たに約1億9400万円の予算を投入して土地建物の取得を進めているというが、ホテルが少ない尼崎では元置き屋をゲストハウスにして観光客を誘致したほうが、市も盛り上がるのではないか。そんなことを書くと怒られそうだが。
■カワノアユミ 20代を歌舞伎町と海外夜遊びで過ごした元底辺キャバ嬢。現在は国内外の夜の街でニッチなネタから盛り場の変遷までを幅広く取材。著書に、アジア5カ国の日本人キャバクラで9カ月間潜入就職した『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)。X(旧Twitter):https://x.com/ayumikawano/