ドナルド・トランプ次期米大統領は関税一律引き上げのため「緊急事態」の宣言を検討すると報じられた。実際に引き上げられた場合、日本経済にはどのような影響があるだろうか。
関税引き上げの影響は複雑だが、経済的な効果についてはある程度分かっている。
すでに昨年6月、2001年にノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツ氏ら16人の受賞者が公開書簡でその悪影響に警鐘を鳴らした。
それに加えて、08年に同賞を受賞したポール・クルーグマン氏や24年受賞のサイモン・ジョンソン氏も、関税引き上げは中低所得者層の大きな負担になるばかりか、むしろ米国製造業に損失もあると酷評する。
関税は、国産品に対する消費税と同様に輸入品に対する消費税とも考えられ、外国産品を購入する米国人の負担になるからだ。もちろん、関税をかけられる外国にとっても迷惑である。中国は、トランプ関税で経済成長率が2%程度低下するという試算もある。
つまり、外国産品に対する消費増税になるから、外国産品は割高になり、米国人の消費は減少し、国産品の消費へシフトする。一方、為替については確たることを言い難いが、当面ドル高になって関税の効果を一部相殺するのではないか。
いずれにしても、日本からの対米輸出は減少し、その一方で代替的な米国産品の生産が伸びる。米で代替産品がない場合には、高くなった外国産品を購入せざるを得ない。
関税引き上げだけであれば、こうした一般論通りの変化が予想される。だが、トランプ政権では、同時に所得税減税をする。要するに、外国産品の購入には増税、国内産品には減税というポリシーミックス(政策の組み合わせ)と考えていい。
マスコミ報道では、トランプ政権は富裕層に減税するので、不平等が拡大するばかりか、インフレ圧力が高まり、高関税と相まって国内インフレ率がかなり高くなる―と予想する向きもある。不平等が拡大する可能性は否定できないが、インフレになるかどうかは需要圧力と供給余力のバランスによる。
需要圧力については関税という増税があるので、それほど高まらないであろう。短期的には供給は一定なので、インフレ率がべらぼうに高くはならず、米国は一定の成長路線になる気がする。また、前述したように、当面ドル高になって関税の効果は相殺される可能性がある。
今のところ、トランプ氏は対米貿易の大きいメキシコ、中国、カナダに対して関税を引き上げようとしているが、一律引き上げになると影響がさらに拡大することは避けられない。
となると、いくら米国経済だけが一時良くなるとしても、為替の動き次第では巡り巡って世界経済が混迷する可能性も否定できない。
日本としては、米国のいない環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で備えつつ、米国との個別交渉で関税攻撃に巻き込まれないように準備しておかなければいけない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)