■最終回■
小欄を書かせていただいて15年近く。今はタイトルカットの写真に比べてずいぶん髪が薄くなりました(笑)。ってそんな話はどうでもよく、残念ながら今回が最終回です。
思えば球界もこの間、コロナを挟んで大きな変遷を遂げました。一番感じるのはデータのすさまじい台頭。テレビ中継では投球の回転数やら、打者のOPSなど次から次に新しい数字が出てきて、画面はデータでいっぱいになっています。
テレビならそれでもいいのかもしれません。ただ、私の本職であるラジオ中継ではそうもいかないのです。ラジオの生命線は臨場感。今やスマホをワンクリックすれば12球団の最新情報が見られる時代、われわれのメリットは現地にいるからこそ分かる、五感を駆使した言葉だと思います。
風が冷たくなってきた、神宮の森の緑がやがて夜空と同化してゆく、三振した岡本選手が悔しそうにバットを叩きつける(岡本選手、ごめんなさい)などなど…。これらはネットでは分からない情報。「スポーツアナウンサーは、目の前で起こっていることを細大漏らさず伝えればいい」とは、亡き関根潤三さんのお言葉。まさに金言です。しかるに中継でデータ、データを詰め込めば、そんなことを言う時間がなくなり、数字の羅列ばかりで全く臨場感のない放送になってしまいます。
私は今年でアナウンサーになって40年。ラジオというメディアは入社当初からオールドメディアと言われ続けてきましたが、どっこいどうにか元気です。野球界がデータ全盛ならメディアの世界はネット全盛。ただ、私は古いと言われようが、アナログな世界観が染み付いているし、大好きです。
データ、データもいいけれど、最後に感動を呼ぶのは気合いや根性が生むビッグプレーであり、それを伝えるわれわれの使命はそんな彼らの息づかいであり、取材で得たそこに至る過程であると信じます。長い間、ご愛読ありがとうございました。そして拙文を載せ続けてくださった夕刊フジの皆様に感謝申し上げます。 (フリーアナウンサー・松本秀夫)