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トップ直撃 膨らむ「非常食」需要の先に総合食品メーカーへの道 アウトドア、インバウンド、高齢者施設…「宇宙日本食」第1号も 尾西食品・市川伸介社長

zakzak by夕刊フジ 2024年8月20日 11時0分

常温で長期保存が可能で、お湯や水を注ぐだけで食べられる「アルファ米」を中心に、さまざまな食品事業を展開するのが尾西食品だ。災害発生時の「非常食」としてのニーズは自治体や企業から個人まで根強いが、アウトドアやインバウンド(訪日客)需要、そして宇宙食まで用途も広がっている。市川伸介社長(64)は「『総合非常食メーカー』を目指し、さらには『総合食品メーカー』に近づきたい」と意気込んでいる。

――アルファ米の特徴を教えてください

「お湯で戻すと15分、水でも1時間でおいしくいただけるという商品です。炊き上がって熱いご飯を急速乾燥させ、水分を飛ばして作ります。普通は炊いたご飯粒同士がくっついてしまうのですが、うちの技術によって、戻すと元の丸粒の米になります」

――フリーズドライとの違いは

「フリーズドライは急速に冷却させる手法で、吸水しやすく戻りが速いのが特徴です。ただ、本当に普通のご飯のような味になるのは、アルファ米だと思います」

――アルファ米のパイオニアだそうですね

「創業者は戦前、海軍で潜水艦に乗っていました。艦内でなるべく酸素を使わないようにするには、火を使わずにお湯か水を入れたら戻るものでなければということで、乾燥食品の技術を開発しました。戦時中にも各地の部隊に軍事食糧としてアルファ米を届け、戦後は乳幼児や病人用の食品にも使われました」

――白米以外にもバリエーションに富んだ商品展開をしています

「クッキーやうどん、パンなど、普段通り食べてもらえるものに加え、アレルギー対応の食品も展開しています。非常食の市場は230億~240億円といわれていますが、そのうちアルファ米は75億円から80億円ぐらいだと思います。いろいろな食品を作ることで、『総合非常食メーカー』になることを考えています」

――新商品にはどのようなものがありますか

「水を入れてかき混ぜて作るムースを6月に発売しました。飲み込むことが難しい人でも食べやすいので、高齢者施設や病院などで、いままでになかった商品だと評価していただいています」

――販売チャンネルは

「当初は自治体中心だったんですが、企業の備蓄も増えているほか、個人需要も高まってます。亀田製菓のグループになって11年たちましたが、現在は自治体、企業や大学、アマゾンや楽天などネット通販経由がそれぞれ約3分の1ずつですね。店舗では、ホームセンターさんの防災コーナーやアウトドアコーナーでも販売していただいています」

――一般家庭では、災害時の備えとしてどう使えばいいですか

「非常食は種類が非常に増えているので、何を選べばいいか分からない方も多いと思います。われわれが提案するのは、3日間の朝昼晩のメニューを考えることです。災害時の初動は水もお湯もないことが多いので、パンやクッキーなどそのまま食べることができるもの。2日目になったら水がだいたい通るだろうからアルファ米。3日目にお湯を沸かせるようになれば麺も食べることができます。われわれも3日分の非常食のセットを用意しているので、家族の人数分そろえていただくのもいいかと思います」

世界で活動する登山家、アスリートも重宝 「宇宙日本食」第1号にも

――世界で活動する登山家やアスリートにも重宝されているとか

「海外遠征は荷物が多いので、重量のあるご飯やお米は避けたいところです。水やお湯を注ぐだけでできる『携帯おにぎり』なら軽いですし、長期間もつというメリットがあります」

――宇宙食にも採用されたそうですね

「『宇宙日本食』の第1号なんです。品質はもちろん、宇宙に持って行って空気のないところでどうなるのかなど、JAXA(宇宙航空研究開発機構)さんの基準は厳しかったですね」

――用途は広がっていますね

「台湾への輸出が広がっているほか、欧米などではおにぎりの需要が高まっています、『総合非常食メーカー』から、さらに『総合食品メーカー』に近づけたら、もっと会社は成長するのではないかと思います」

「コシヒカリ」「アルファ米」公私ともに米とのつながり

【農業】地元新潟の魚沼地域に月に1、2度は戻り、自ら稲作を行っている。

「実家はもともと農家だったのですが、父親が亡くなってから私がやるようになりました。作っているのはコシヒカリです。トラクターも買って、自分で食べる分と、社員の方々に買っていただくぐらいの量を作っています」

社会人生活でも米とのつながりは大きかったという。

「亀田製菓では、米の販売が許可制から登録制になった時代に、主食米販売のプロジェクトを1人で任されたことがありました。生産者や農協に手伝いに行き、何度か通ううちに打ち解け、仕入れ契約にこぎつけて農家の人たちと湯のみ茶碗(ちゃわん)で酒を酌み交わしたことが忘れられません。2013年に尾西食品に来てからはアルファ米など商品の企画開発を担当しました」

【家族】母親と妻、長男の4人家族。「家族は新潟で、私は単身赴任生活が14年になります。毎朝LINEで連絡を取り合っています」

楽器が好きな社員と2、3年前からライブハウスで演奏

【ギター】ギブソンのギター「レスポール」を約10年前に購入した。「フェンダーとヤマハのギターも持っています。社員が入るたびに楽器をやっているのか尋ねているんですが、そうするうちになんとなくバンドのメンバーが集まりました。2、3年前からライブハウスで演奏しています」

好きなバンドはTHE MODS(ザ・モッズ)。

【読み返す一冊】『成功への情熱』(稲盛和夫著)。「能力がなくても熱意、情熱、努力がそれに勝る成功への鍵であるという内容には勇気をいただきました」

【座右の銘】《やって見せ言って聞かせてさせてみて、ほめてやらねば人は動かじ》

「同じ新潟県人として、山本五十六の言葉を座右の銘としています。自分は動きながら考えるタイプなので、まずは自分で探りを入れて可能性を見極め、社員のアイデアを加味して施策に入れる。率先垂範ながら、みんなで実行すれば道は大きく広がるという気持ちです」

【健康法】「運動はしていません。サプリメントとビタミン剤、朝にバナナ1本を食べるようにしています」

【もしいまの仕事に就いていなかったら】「地元の町役場や農協に勤めていたのではないかと思います」

【会社メモ】アルファ米など穀類加工食品の設計・開発・製造・販売を手掛ける。本社・東京。1932年に創業者の尾西敏保氏がデンプンを乾燥させる「アルファ化」加工技術を開発、35年尾西食品研究所を創立する。終戦後、アルファ米の生産を再開、49年尾西食品設立。2013年亀田製菓の完全子会社となる。従業員数142人(24年4月1日時点)。

■市川伸介(いちかわ・しんすけ) 1960年3月生まれ、64歳。新潟県出身。東海大学政治経済学部卒。1983年亀田製菓入社、2013年に尾西食品出向、営業本部副本部長に。14年同社取締役営業企画部長、19年常務取締役営業企画部長、20年常務取締役営業本部長、21年専務取締役営業本部長を経て24年4月代表取締役社長兼営業本部本部長に就任する。

(ペン/中田達也 カメラ/相川直輝)

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