「仕事好き」を根底に
優しい雰囲気と繊細な演技で人々を魅了している。多忙な日々を送っているが、穏やかさを保てているのは、「自己の心を整えること」を心がけているからだという。
「なるべく心が乱れたくないんです。うまくいかないことがあっても、落ち着いて行動できるように、普段からせかせかしないようにしています。人に合わせようとしすぎると、自分のペースが乱れるので、バタバタしているときこそ自分のペースを守るのを大切にしています」
演じる時は“思い込み力”を大事にしている。
「僕らの仕事は、どれだけ思い込めるかが大事。例えば医者や警察官になったことはないので想像するしかありませんが、『自分はその職業の人間なのだ』と思い込む力が強ければ強いほど、その役に近づけるんです」
彼が注目されたのは、2019年のNHK連続テレビ小説「スカーレット」でヒロインの相手役で出演したのがきっかけ。急に環境が変わっても「ブレないこと」は大切にしてきたという。
「根本的な部分…芝居を好きになったきっかけや、『どうして自分がこの仕事しているのか』など、忙しさの中で見失ってしまいがちな“大事なもの”は忘れないようにしてきました。それは今も、です」
その“大事なもの”とは、「この仕事が好き」だという思い。
「忙しすぎてやることが多いと、なぜ自分がこれをやっているのかが分からなくなりがち。『好きだ』という気持ちが根底にあれば、どんなことがあっても、ブレずにやっていけるんじゃないかな」
好きでい続けるためにも、「仕事に手を抜かない」ことも大事なことだ。
「せっかくオファーをいただいた役なので、僕に頼んでよかったと思っていただけるようにしたいですね」
1つ1つの積み重ね
22日からミュージカル「ケイン&アベル」に主演する。イギリスの国民的作家ジェフリー・アーチャーのベストセラー小説を原作とした、世界初演のオリジナル・ミュージカルだ。
「世界初上演ということで、まだ誰も演じていない役を、僕たちが演じさせてもらえるのは貴重な経験です。スタッフは、ブロードウェイのトップチームの方々が来てくださるので、普段、日本にいるだけでは見られない世界規模の演出やステージングをお届けします」
20世紀初頭、同じ日に生まれ、銀行家の父の跡継ぎとして祝福された人生を歩むケイン(松下洸平)と、孤児として生まれ、貧困や度重なる苦難に直面しながらもアメリカに渡ったアベル(松下優也)が出会い、宿命のライバルとして生きていく姿を描く。
「ケインは家柄も良く、教養もありますが、彼なりの野心や譲れない部分を持っているので、アベルと対になるような強さをしっかりと表現していきたいです」
日頃から「闘争心がない」という彼だが、ライバルがいたことはあるのだろうか。
「誰か特定の人というよりは、20代の頃はテレビの仕事をしたくてもなかなか恵まれなかったので、テレビを見ながら、そこに映る人たちをうらやましく思うことはありました。『この人たちよりもいい俳優になるにはどうしたらいいんだろう』というのは、ずっと考えていましたね」
そのもどかしい環境から抜け出すために、心がけたことがある。
「どんな小さな役でも、『この役は自分の人生を変えるかもしれない』と思いながら取り組んできました。そういう1つ1つの小さな積み重ねが、今につながっているような気がします」
日頃から「自己と向き合うこと」を大切にしている。それは、子供の頃からだという。
「どこか俯瞰しているところがありました。子供の時から絵を描くのが好きで、没頭してしまうと、絵の全体の完成度がわからなくなってしまうので、時々離して見るんです。その癖が、今も物事を捉えるときの癖として残っています」
毎年、年が明けると、心の中で「HAPPY NEW ME!」と叫ぶという。今年も“新たに生まれ変わった松下洸平”を楽しめることだろう。
■松下洸平(まつした・こうへい) 俳優、シンガー・ソングライター。1987年3月6日生まれ、37歳。東京都出身。2008年にシンガー・ソングライターとしてデビュー。09年にミュージカル「GLORY DAYS」の出演をきっかけに、俳優として活動を開始した。18年に舞台「母と暮せば」の演技で、文化庁芸術祭演劇部門新人賞を、さらに舞台「スリル・ミー」の演技も併せて、19年に読売演劇大賞優秀男優賞と杉村春子賞を受賞した。21年8月に「つよがり」で、2度目のCDデビューを果たした。
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ミュージカル「ケイン&アベル」は1月22日~2月16日に東急シアターオーブ(東京都渋谷区)で、2月23日~3月2日に新歌舞伎座(大阪市)で上演される。
(ペン・加藤弓子/カメラ・相川直輝)