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お金は知っている トンデモ資本主義観、石破首相の「豹変」は付け焼き刃か 「反アベノミクス」「脱成長」→「脱デフレ脱却を最優先」のお粗末

zakzak by夕刊フジ 2024年10月11日 6時30分

石破茂首相ほど「豹変(ひょうへん)」が激しい人物は、現役記者を50数年も続けてきた拙論としてお目にかかったことはない。「反アベノミクス」「脱成長」を唱えていた石破氏は自民党総裁選を機に、「脱デフレ脱却を最優先」と言い出したのだ。

石破首相は、8月7日に出版した「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)で「アベノミクス」とは一体何だったのかと問いかけ、異次元金融緩和によって国家財政と日銀財務が悪化した▽低金利、円安、法人税減税の反作用で退出すべき企業が生き残った―と指摘した。

これらの見方は、1990年代後半以降の慢性デフレを無視している。物価は下落するが、それ以上の幅で賃金が下がる。家計は困窮し、国内市場は萎縮する。企業は中国など海外に向かう。異次元緩和はこうした国難に立ち向かうためだが、石破氏はそれが企業を甘やかせ、ゾンビ企業が生き長らえると非難した。

デフレのもとでは金利ゼロ以下は市場需給の当然の帰結である。仮に金利がプラスだとしたら、国内市場にとどまらざるを得ない中小・零細企業は倒産が続出し、巷間(こうかん)には失業者が溢(あふ)れるだろう。それでも構わないというのが市場原理主義の考えだ。

ところが、同書では一転して「脱成長」は可能か、「豊かな日本」から「幸せな日本」へという変化が必要でないかと提起、マルクス主義者によくみられる論理である。経済成長なくして少子高齢化の日本の国民が幸せになるというのは空想でしかない。経済のパイが大きくなってこそ、親は子供たちを育て、将来の成長を可能にし、老後世代の暮らしを支える。成長のためには生産性向上が鍵になるが、そのためには教育、基礎研究、技術革新投資が欠かせない。政府が国債を発行し、日銀が国債を買い上げ、ゼロ金利のカネをふんだんに供給するのは景気を支えるばかりでなく、将来の成長を確保するための先行投資なのである。

石破首相がトンデモ資本主義観をひきずっているなら、いかなる豹変ぶりをみせたところで、その経済政策はお粗末極まりない付け焼き刃に終わるだろう。

「財政黒字化」は危険

石破首相はとりあえず、日銀の利上げ支持は引っ込めたようだが、より気がかりなのは財政出動の重大性の認識である。財務官僚は国債費を含めた財政収支の黒字化を石破政権に呑(の)ませようと画策している。そうなれば、年間数十兆円もの需要が民間から奪われ、デフレに舞い戻るだろう。

グラフは一般政府(中央、地方政府と社会保障基金の合計)の純債務(総債務の総資産に対する超過分)の対名目国内総生産(GDP)比率と円ドル相場の推移である。円安とともに純債務比率が劇的に減少している。円安で外貨準備や公的年金の対外資産が急増すると同時に、物価上昇で名目GDPが大きく伸びたためである。経済成長に向け財政支出を増やすゆとりは十分ある。利上げによって円高誘導すれば、元も子もなくなるだろう。 (産経新聞特別記者・田村秀男)

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