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日本の解き方 極端に単純化すれば「長生き保険」年金の財政検証を読み解く 平均寿命は飛躍的に高齢化、次回は「納付期間延長」実施へ

zakzak by夕刊フジ 2024年7月23日 6時30分

公的年金の「財政検証」を受け、厚生労働省は国民年金の納付期間を5年間延長する案を見送った。

財政検証とは、年金財政の収支の見通しを点検するもので、5年に1度行われる。厚労省は今回の財政検証の結果を踏まえて、秋にも与党と年金制度改革の議論を始め、年末までに関連法の改正案をまとめて来年の通常国会に提出する方針だ。

今回は、国民年金(基礎年金)の納付期間延長・給付増額を行った場合の検証が最大のポイントだった。もちろん、これは、国民の平均寿命が伸びているので年金財政の維持のためにいずれ必要なことだが、今回は見送られた。

その理由は、高齢者と女性の就労参加などで多少、年金財政に余裕ができたため、あえて火中の栗を拾わなかったものだ。

年金は、極端に単純化すれば、平均寿命まで所得の一定割合を納めて、平均寿命より長生きした人は一定額を受け取れるが、平均寿命より早く死んだ人は受け取れないという「長生き保険」だ。死亡生命保険とは逆に、長生きした人がもらえるのだ。

実際には、各種の公的年金があり、それぞれの歴史的経緯があるので、ここまで単純化できないが、平均寿命に密接に連動した納付期間まで納付し、その後長生きした人はもらえ、早く死んだ人はもらえないという年金の本質は間違っていない。

このため、平均寿命の伸びとともに、納付期間延長や支給開始年齢の引き上げはいずれ避けられない。

納付期間のこれまでの経緯を見てみよう。

国民年金法が1961年に施行された際、20歳以上60歳未満の40年間が納付期間だった。

基礎年金は分立していた既存の各公的年金制度の「1階部分」を共通化した仕組みであり、85年の年金改正でつくられた制度だ。従来の厚生年金保険制度、国民年金制度を生かした上で、国内に住所を有するすべての人に共通して適用する制度になっており、納付期間は国民年金を引き継ぎ、20歳から60歳までの40年間とされた。要するに、これまで基礎年金の納付期間は40年のままで見直されたことはなかった。

2022年の日本人の平均寿命は男性が81・05歳、女性が87・09歳だ。1960年の男性65・32歳、女性70・19歳、85年の男性74・78歳、女性80・48歳に比べると飛躍的に高齢化している。国民年金発足時は、年金財政からみると、長すぎる納付期間であったが、それも今では厳しい。それは所得代替率を見ればわかる。

所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額と比較してどのくらいの割合かを示すものだ。

73年から所得代替率が導入されたが、当初の70%が今や61%だ。標準的なケースで2046年に51%、その他のケースでは50%未満もありえるが、基礎年金の納付期間を5年間延長すれば、どんなケースでも50%を割り込まず、60%程度を維持できる。次回の財政検証では納付期間延長が行われるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

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