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小林至教授のスポーツ経営学講義 拡大期に入った「スポーツ通訳」の仕事 関心高まるが…キャリアパスや業務内容は未確立 協会設立で業界のエコシステム構築へ

zakzak by夕刊フジ 2024年7月4日 6時30分

今年から、私の研究テーマにスポーツ通訳が加わった。

この興味の発端は水原一平さんではなく、それ以前に年明け、一般社団法人スポーツマネジメント通訳協会の会長に任命されたことにある。この役職を通じてスポーツ通訳の現実と、その不可欠な役割について深く考察する機会を得たのである。

プロスポーツ業界は、ドリーム・ジョブと言われる。好きなスポーツに携わり、著名なアスリートとともに仕事ができるうえに、人々を感動させ喜ばせることが本務であるスポーツビジネスの一翼を担う、やりがいに満ちた仕事であるとされているためだ。しかし、過酷な労働条件と低い報酬が常であり、「ドリーム・ジョブ」という表現には幻想を抱かせる皮肉も込められているという声もある。わたしに言わせれば、どちらも正しい。

スポーツ通訳の仕事はその象徴である。プロ野球をはじめとしたプロスポーツから大学駅伝など学生スポーツまで、外国人選手の成否がしばしばチームの命運を握る。近年は日本の経済力の低下や円安の影響で、外国人選手への依存度は変化しているものの、グローバル化と産業化が進展するなか外国人選手の需要は高く、マネジメントレベルの国際交流の機会は増加している。

たとえば、プロ野球では各球団が抱える外国人選手の数は増える傾向にある。1990年代は支配下3名、出場2名だったのが、いまは支配下無制限、出場4名。さらに育成選手として在籍するケースも急増しており、現在は12球団で計90名の外国人選手が在籍している。

スポーツ通訳の業務は職場における言語の仲介にとどまらない。病気の家族の世話から金融機関の手続きまで、選手の生活全般のサポートをする。通訳業務自体も、公の場でのプレッシャーの中でのヒーローインタビューやミーティングでのウィスパリングなど、高度な技術と精神的な強さが求められる。

この成長分野への関心が高まるなか、日本会議通訳者協会や通訳派遣の大手「吉香」がスポーツ部門を新設するなど、市場は拡大期に入りつつある。しかし、この分野における人材のスペックやキャリアパス、具体的な業務内容についてはまだ確立されていないため、業界全体が試行錯誤の段階にある。

スポーツマネジメント通訳協会の設立趣旨はまさにそこにある。スポーツ通訳に求められるスキルセットや倫理規範を標準化し、その能力を証明する検定試験を提供することで、業界の透明性と信頼性を高めることを目指している。通訳業務を超えたマネジメント能力が求められる現実を踏まえ、「スポーツマネジメント通訳」という名称を選んだのもそのためである。実際、優れた通訳者がフロントのマネジメント職に抜擢され、要職に昇進する例は少なくなく、球団代表に上り詰めた事例もある。

この未開拓の分野での標準化とプラットフォームの構築、さらには学術的な研究の推進は多くの可能性を秘めている。私はこれらスポーツ通訳のエコシステム構築に向けた動きに深い関心を寄せている。 (桜美林大教授)

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