衆参ダブル選挙の可能性もささやかれるなか、注目すべき選挙区がある。その筆頭が参院鹿児島選挙区である。
今期限りで政界引退する自民党の尾辻秀久前参院議長に代わり、三女で秘書の朋実氏が、7月の参院選に無所属で出馬することが発表された。
尾辻氏自身は明確な後継指名をしていないが、朋実氏は昨年夏に「父の背中を見てきて、仕事の重みを感じた」と出馬の意向を表明し、自民党鹿児島県連の候補者公募への応募を表明していた。
だが、鹿児島県連は昨年12月、園田修光元参院議員の擁立を決定した。選に漏れた朋実氏は今月11日、方針を大転換するかのように野党第一党の立憲民主党に入党し、推薦を得ることになった。
参院鹿児島選挙区は2001年に定数が2議席から1議席に減ったが、自民党が議席を独占していた。しかし、与党が大惨敗した昨年10月の衆院選で、自民党は森山裕幹事長の4区を除き、鹿児島県内の3選挙区で敗退した。
朋実氏を支援する立憲民主党は、国民民主党など各野党の支援をも呼びかけるつもりだというから、事実上の野党共闘をもくろんでいることになる。なお、朋実氏は昨年末までに24年分の自民党費を払わず、党籍を失効させているというから、シナリオは固まっていたのだろう。
一方、園田氏の擁立を決めた自民党側はかなり苦しい様子だ。ベテラン自民党県議の外薗勝蔵氏も出馬の意向を固めたとされ、混戦が予想される。自民党の票が割れ、朋実氏に流れる可能性もある。
それでなくても、鹿児島選挙区には複雑な事情がある。
21年と24年の衆院選で自民党の公認候補と闘った三反園訓衆院議員が今月、自民党に入党したことで、複雑な思惑をはらんだ波乱が予想される。昨年の衆院選で三反園氏に敗れた保岡宏武前衆院議員は「(次回も)公認をもらって、自民党として戦わせてもらいたい」と話し、勝負を捨ててはいない。
もっとも、三反園氏の入党が許されたのは、与党過半数割れで自民党が少数与党となったからだ。今はしがらみを忘れ、〝バッジを持つ仲間〟を1人でも増やし、党勢を維持しなければならない。
政権運営が大迷走する石破自民党は、次期参院選でも苦戦を余儀なくされるだろう。衆院に続き参院でも少数与党になったら、文字通り「政権交代」は待ったなしとなる。
ガバナンス崩壊の様相もある参院鹿児島選挙区での混乱はどうなるのか。自民党の対応次第では〝下野〟の流れを決定づける引き金にもなりかねない。「次期参院選で最も注目すべき選挙区」といえるゆえんである。 (政治ジャーナリスト)