17日、安倍晋三元首相が眠る山口県長門市にある墓所を訪れた。墓にはいまなお、多くの花が手向けられていた。祖父の安倍寛氏と、父親の安倍晋太郎氏、安倍元首相の墓誌が並ぶ。晋太郎氏、晋三氏ともに享年67。日本海からの寒風はそれほど強くなく、あたりは静寂に包まれていた。
同県下関市で前日行われた長州「正論」懇話会で講演したジャーナリストの櫻井よしこ氏、同懇話会の清原生郎代表幹事、中村明彦福岡県議夫妻、杉田水脈前衆院議員らと、昭恵夫人が15日(日本時間16日)に、ドナルド・トランプ次期米大統領夫妻と面会したことを報告した。
メラニア夫人は自身のX(旧ツイッター)に、「私たちは亡き安倍氏を懐かしく思い出し、彼の素晴らしい功績をたたえた」と書き込んだ。安倍氏が存命ならば一緒に招待され、1月に大統領に返り咲くトランプ氏に助言していたことだろう。安倍氏も首相に再々登板していたかもしれない。
安倍氏が凶弾に倒れてから2年半近くたった。1人のリーダーの死去で、かくも日本が変わるものかと実感する。
安倍氏が率いた清和会(旧安倍派)は、政治資金パーティー券収入の政治資金収支報告書への不記載問題で解散に追い込まれた。10月の衆院選では、旧安倍派の候補42人のうち26人が落選した。自民党は過半数割れした。
その中で、非公認となりながらも小選挙区で勝ち抜いたのが、安倍氏の最側近だった萩生田光一元政調会長だ。
櫻井氏は16日の講演で、安倍氏に生前聞いた話を披露した。
「後継は誰ですかと聞いたら、間髪入れず、(安倍氏から)『ピカイチは萩生田光一です』という答えが返ってきた。自分の周りにいた人たちに、さまざまな機会を与え、どういう仕事をするか見てきた。一度たりとも私を失望させなかったのが萩生田です」
筆者も、安倍氏から萩生田氏のことを「腹心だ」と聞いたことがある。
萩生田氏としても、安倍氏から期待をかけられながら、いまだ追加公認されず、役職停止の処分も来年4月まで続いている状況をふがいないと思っていることだろう。
少なからずの自民党員から「長年党員を続けてきたが、いまの石破茂総裁体制が続くのならやめようと思っている」という話を聞く。批判の矛先は、LGBT理解増進法の成立に向けて調整を担った萩生田氏にも向けられている。いったん失った信頼を回復することは容易ではないことは、萩生田氏らもよく分かっている。
ただ、官房副長官として安倍氏とトランプ氏との会談に同席し、トランプ氏の人となりを知るのは萩生田氏や、同じく無所属で戦った西村康稔元経産相、世耕弘成前参院幹事長(現衆院議員)である。3人は厳しい選挙ながらも勝ち抜いてきた。当選するとしないとでは大違いだ。
安倍氏の下で仕事をした蓄積を生かし、その「遺志」を継ぎ、安倍氏が生前、やり残したと話していた北朝鮮による拉致問題の解決、憲法改正などに先頭に立って取り組む責務が、萩生田氏や旧安倍派の議員たちにはある。 (産経新聞特別記者・有元隆志)