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田村秀男 お金は知っている 物価高の今、株高はこのまま持続できるのか 円安止まれば日本株ブームに〝冷や水〟日銀が利上げ、失われた30年の悪夢再来へ

zakzak by夕刊フジ 2025年1月10日 6時30分

新年早々、縁戚の若者が「ことしから、NISA(少額投資非課税制度)を始めたいけど、どう」と相談してきた。精いっぱいに働いても手取りは増えない。銀行預金金利も物価上昇率をはるかに下回るマイナスだ。物価高の今、現役世代にとって、株価が上がるかどうかはかつてなく重要になってきた。

株高はこのまま持続できるのだろうか。

日本経済新聞は昨年末までの株高について「日本株、バブル超えの年 脱デフレ銘柄・東証改革・新NISAが支え」(12月31日付朝刊)と期待を持たせる。だが、現実には低調な家計消費や設備投資など、需要不足が続き、デフレ圧力は去っていない。市場改革、新NISAがどうだろうと、経済が弱ければ株高は長続きしないだろう。

株高をもたらしている主因は円安である。円安のトレンドが円高に逆転すれば、日本株ブームは一挙に冷える不安がある。

論より証拠、グラフは円ドル相場と日本株価(東証総合指数)の月単位の推移である。2012年初めから24年末までを追っているが、両者は奇跡的とも言えるほどに寄り添っている。統計学の相関係数(最大値は1で、アツアツのカップルに例えられる)は0・9を上回る。つまり円安に振れると株高、逆は株安というわけである。

このパターンは2012年末に打ち出されたアベノミクス以来で、石破茂政権になっても変わらない。アベノミクスが「悪い円安」をもたらしたとなじった石破氏にとっては、不都合な真実だ。

最近の円安加速の動因は日米の実質金利差だ。日米の長期金利から消費者物価上昇率を差し引いた実質金利の差(米国マイナス日本)が、22年4月から拡大し始めると同時に円安が加速し、現在に至る。

植田和男総裁の日銀は円安が物価高を招くとみなし、昨年にはゼロ金利政策を解除し、利上げに前のめりになってきた。だが、4%前後もの実質金利差を、利上げで金利差を大きく縮小させるためには年間を通じて利上げするしかない。家計も中小企業も締めつけられ、失われた30年の悪夢再来だ。

日銀は円安が株高をもたらす側面を無視して利上げを急ぐべきではない。石破政権が株高は歓迎だが、円安はノーだとはムシが良すぎる。実体経済の押し上げにつなげる財政を展開すべきなのに、石破政権は財務省主導の緊縮型来年度予算に同意した。

もう一つ、鍵になるのは、米国で20日発足するトランプ第2次政権だ。トランプ氏はドル高を嫌っており、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長にさらなる利下げを求めるだろう。他方で、トランプ氏は大型減税、高関税を標榜(ひょうぼう)しており、米インフレ率が日本よりも大幅に高く上昇する見通しが市場に広がる。となると、ドル高・円安トレンドは止まる。石破首相が早期のトランプ氏との会談を見送ったのは定見のなさの表れだ。 (産経新聞特別記者 田村秀男)

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