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久住昌之 するりベント酒 五百円台の「すき焼き弁当」を味わう ファンシーな桜漬けはジジイばかりの職場に若く快活なバイトの女の子のような存在

zakzak by夕刊フジ 2024年9月1日 10時0分

前にこの連載で、東京駅の構内で売っているすごく高いすき焼き弁当を買った、という話を書いたことがある。

と思って、パソコンの中を調べたら、データ残ってました。

浅草今半のすき焼き弁当、なんと税込2047円!

ヒュ~、奮発したな。そんで八重洲口のデッキで生ビールと共に食したのだ。そうだったそうだった。写真見たら、見るからにうまそう見るからに高そう肉デカイ。

えーそれで時は流れて本日、サミットストアで買ったすき焼き弁当590円。正式名称「優しい甘さに仕上げた牛すき焼き重」。いつもながら長い。「弁当」ではなく「重」でした。確かにごはんが見えない。

値段はともかく、前回のすき焼き弁当と大きく違うのは、前者の卵が味付けゆで卵であったのに対し、こちらは温泉卵に近い半熟卵であること。そこは今回期待できる。というのはトロッとした卵に牛肉をつけて食べる楽しみがあるからだ。これはすき焼きの重要な楽しみだ。今半のゆで卵ではできなかった。

具は肉の他に白滝・ネギ・焼き豆腐。十分である。春菊、なんて言いますまい。チープな桜漬けがピンクでファンシー。すき焼きにちょっと似合わない。でもいい。

さてまず肉を単体で食べる。

うん。いいじゃないか。確かに甘さ控えめかもしれん。肉が取り去られた部分から覗いたごはんをほじくり出して食べる。うん。まあ、いい。でも甘さ控えめはいいが、しょっぱさも控えめである。これはごはんのおかずとしてどうか。というより、半熟卵につけて食べた時どうか。

若干の心配を抱きつつ、白滝を単体で食べたら、これは確実に味が薄い。色は茶色いが、見た目よりずっと味が薄い。味が無い、に近い。

冷蔵庫から醤油を出してきて、慎重に慎重にぽたりぽたりとかけ回す。かけ過ぎ絶対注意。

半熟卵を箸で割る。お、思ったより生。いいじゃないか!ここに醤油を少しだけたらした肉をねじ込むように入れて引き出し、口に入れる。ほーら、うまい。醤油たらし正解。続いて白滝も。うん、まあうまい。でもやはり白滝にはすき焼きのタレがもう少し染み込まないとダメだな。でも贅沢は言いますまいの590円。

次に焼き豆腐。まぁまぁいける。すき焼きにおける豆腐はそもそもそんなに重要で無いボクにとっては上等。ネギは普通にうまい。ごはんを頬張る。うむうむ。すでに満足感あり。

ここでファンシーな桜漬け。なんとこれが意外に合う。そうだよね。ここで活躍しないでいつ輝くんだいサクラちゃん。失礼しました。いや、このすき焼き重に於いてお世辞抜きに重要アイテム。ジジイばかりの職場に若く快活なバイトの女の子がやってきたようです。こいつをポリポリッと食べた途端、牛肉の態度が変わった。ような気がした。沈みがちに見えた豆腐も急に明るくなった。

いやいや、このすき焼き重、夏バテ気味のお昼ごはんにはとてもよかった。590円を堪能しました。ありがとうサミットストア。

■久住昌之(くすみ・まさゆき) 1958年7月15日、東京都生まれ。法政大学社会学部卒。81年、泉晴紀との〝泉昌之〟名でマンガ家デビュー。実弟の久住卓也とのユニット〝Q.B.B.〟の99年「中学生日記」で第45回文藝春秋漫画賞受賞。原作を手がけた「孤独のグルメ」(画・谷口ジロー)は松重豊主演で人気(テレビ東京)。ミュージシャンとしても活躍。

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