岩屋毅外相は19~23日の日程で訪米し、ワシントンで20日に行われるドナルド・トランプ次期大統領の就任式に出席する。岩屋氏は訪米中に、国務長官候補のマルコ・ルビオ上院議員との会談を調整している。中国への「すり寄り」も目立つ岩屋氏が、筋金入りの「対中強硬派」のルビオ氏にクギを刺される可能性もある。就任式にはトランプ氏と近い複数国の首脳が招かれているが、石破茂首相は出席しない。すでに本格始動しているトランプ次期政権だが、識者は「日本外交の出遅れが目立つ」と指摘する。
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外務省によると、大統領就任式に外相が出席するのは初めて。岩屋氏は17日の記者会見で、「日米首脳会談が有意義なものとなるよう次期政権側と意思疎通したい」と述べた。石破首相とトランプ氏の首脳会談実現に向けて調整を行うとみられる。
日本、米国、インド、オーストラリアの戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」外相会合も調整されており、岩屋氏が出席する見込みだ。
米大統領の就任式は、就任宣誓と演説が中心で、これまでは駐米大使が出席する国が多かった。
トランプ氏は今回、面識のあるイタリアのジョルジャ・メローニ首相や、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相らを招いている。
中国の習近平国家主席も招待した。中国側は習氏の出席を見送ったが、通例の駐米大使ではなく、韓正国家副主席を出席させる見通しだ。
日本からは岩屋氏のほか、自民党の片山さつき参院議員も招待された。
前駐オーストラリア大使で外交評論家の山上信吾氏は「オルバン氏やネタニヤフ氏のように気の合う人や、話のできる人、習氏など一目置く人だったりと、一つの物差しでは測れないが、面識がある人を中心に呼んだという印象だ。米国との関係の重要度よりも、トランプ氏の独自色が出ていると思う。日本に対しては、仲間として連携したいという思いと、クアッドの外相レベル会合もあって岩屋氏を呼んだと考えられる。日本製鉄によるUSスチールの買収計画は外交問題になっているので、外相が行くことは大事だ」とみる。
中央日報(日本語版)によると、韓国からは趙賢東(チョ・ヒョンドン)駐米大使が出席する。同紙は「韓国政府の関係者の重量感が中国と日本に比べて落ちるという指摘が出ている」と報じた。
確かにそうだが、日本も首脳が出席する国と比べれば「見劣り」している。
石破首相は昨年11月に南米を訪問した際、帰国途中にトランプ氏との会談を模索したが実現しなかった。安倍晋三元首相の昭恵夫人がトランプ夫妻と面会したことをきっかけに、今年1月中旬の会談日程が示されていたが、結局、大統領就任後となる2月以降で首脳会談を調整している。
山上氏は「石破首相は招待されたのかどうか不明だが、もし呼ばれていないのだとすれば、関係をつくれていないことの裏返しだ。日本外交にとってマイナスだといえる。各国の競争が厳しい世界で、石破首相がトランプ氏と会っていないことで、米国との関係づくりに出遅れている」と指摘する。
山上氏警鐘「首相2月訪米では危機感足りない」
トランプ政権でカウンターパートとなるルビオ氏との会談が実現した場合、岩屋氏の言動も注目されそうだ。
岩屋氏は昨年12月に訪中し、王毅外相兼政治局員と会談した。その際、中国の富裕層を想定し、中国人向けに10年有効の査証(ビザ)など発効要件を緩和すると表明した。日本でも中国への「すり寄り」だとして物議を醸し、自民党内からも苦言を呈された。
対照的なのがルビオ氏だ。15日の上院外交委員会の公聴会で「中国共産党率いる中国は、米国がこれまで直面した中で最も強力かつ危険な敵だ」と、改めて旗幟(きし)鮮明に対中強硬の姿勢を打ち出している。
山上氏は「岩屋氏はルビオ氏との関係をしっかり構築すべきだが、トランプ政権は対中国を最優先事項にしている。中国高官と満面の笑みで会い、ビザを緩和した岩屋氏の『親中』的姿勢に対し、ルビオ氏は『一体どこを向いているのか』と、座標軸がずれていることにクギを刺してくる可能性はある。石破政権に危機感はないようだが、2期目のトランプ氏は自信を持ってホワイトハウスに戻ってくる。石破首相の訪米が2月というのでは危機感が足りない」と警鐘を鳴らした。