プロ棋士になるための養成機関「奨励会」はある程度知られているが、その下の「研修会」をご存じない方は多いと思う。
研修会は奨励会と違ってプロの一員ではないから、アマの大会に出ることはできる。単に将棋が強くなりたい気持ちで来る子も、当然いる。
とはいえ、ほとんどの子がプロ棋士志望で入るようだ。
研修会は現在、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡と6カ所あり、大体全国を網羅している。
例会は月2回で、1日4対局。各地にゆかりのある棋士が師範となって、面倒を見ている。
クラスはAからGまであり、入会希望者は実力でどこかのクラスに編入される。ただし単なるアマの教室ではなく、男性は15歳以下でA2、18歳以下でSに上がると奨励会の6級に、女性はB1になると、女流2級の女流棋士として編入できる権利を持つ。
つまりプロと直結した教室と言える。
もう一つ奨励会との違いは、プロ棋士や奨励会の三段クラスが対局で教えてくれること。当然本人の昇降級の対局(本番)に含まれる。
私自身、研修会に入った弟子が2人いて、1人は今年の春、奨励会6級に編入。
もう一人の女子高校生は、現在D1級まで上がり、女流棋士を目指している。
ここが男性と女性の厳しさの違いで、男性は研修会を卒業してやっと、奨励会の入り口に辿り着くのに対し、女性は研修会を卒業すれば、一応プロの女流棋士となれるのだ。
当然、女性でも奨励会は目指せるのだが、同じ位置(研修会卒業)で奨励会の入り口と、曲がりなりにも女流プロと呼ばれる立場を思うと、最近奨励会から棋士(四段)を目指す人がほとんどいないのも理解できる。
それを思うと、里見(現福間)香奈女流五冠や西山朋佳女流三冠、中七海女流三段らは奨励会で三段まで登ったのだから立派。
私は東京の研修会の指導を定期的に行っている。クラスにより手合いは違うが、全部が大駒落ちで、今週は道場の四段の少年と飛香落ちを指した。
駒落ちの上手にとって苦しい手合いと思うが、周りを見ても案外上手勝ちが多いから、強い相手に勝つ難しさが経験できるはずである。
ただ一つ懸念は、研修会を抜けても男の子は奨励会の出発点に過ぎないが、今までの大変さを思うと抜けた瞬間、ゴールと勘違いしないかということである。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。