昨年末のことだが、国民民主党が打ち出した「年収103万円の壁」引き上げをめぐる戦いでは、自民党の宮沢洋一・自民党税制調査会会長の会見での「誠心誠意対応したつもり」発言が大炎上した。専門家である財務省軍団からしたら、厳しく言いたいこともあるだろう。ポピュリズムだけでは解決できない難しいこともある。
だが、このSNS全盛の時代にあの言い方は、鈍感力がすごいというか、逆に世間を理解していないのか、わざわざ頑張って自民党をおとしめているとしか思えない。
政治家も基本は人気商売なのだから、世間をおもんぱかった言い方というものがある。または余計なことは言わないことだ。しかし、彼はあたかも「国民は黙ってわれわれの言うことを聞け」と言わんばかりの物言いで、鮮やかに「オウン・ミサイル」を決めてしまった。
一つ一つの言い方や表情が、とにかく何から何まで憎たらしい。また、ときどき見せる、眼鏡の奥でキラリと光る「不敵な流し目」が妙にかんに障る。あれが意図した芝居だとしたら、まさに天才である。自分も悪徳政治家の役を演じたことは何度かあるが、あれほどの憎々しさは表現できなかった。この先、そのような役をいただいたならば、あの記者会見を完全コピーするだろう。
「坊主憎けりゃ袈裟まで法則」で、その憎悪エネルギーは自民党に向かう。SNS界隈は、Xからユーチューブと、宮沢洋一氏に対する「♯国民の敵」というハッシュタグがあふれている。ネットに敏感な若手自民議員などは、「相当な悪手」と、夏の参院選はすでにあきらめムードだと聞く。
改めて宮沢氏の経歴を振り返ると、東大法学部から大蔵省というスーパーエリート。父は法相や広島県知事を務め、伯父は宮沢喜一元首相、岸田文雄前首相はいとこという華麗なる一族。しかしこんなに短期間において、ここまで嫌われた政治家も珍しい。
やはり2024年は、地方選からアメリカ大統領選まで、政治とSNSの関係がハッキリと形作られた年だ。SNSが政治に及ぼす良い面悪い面があるのは言うまでもないが、こういう大きな流れは一度決壊すると不可逆で、もうその流れが緩まることはない。
そういう意味では、国民民主党の玉木雄一郎代表というのは、真逆の才能を持っている。無意味に強がらない物言いが、SNS時代にマッチしている。彼の言葉を聞いていると、あたかも巨大な悪の組織に立ち向かい、自らの命を賭し向かっていく「仮面ライダー」のように思えてしまう。それも政治家としての才能だ。
彼はこの先、日本がいや応なしにのめり込んでいくSNS政治において、大きなポジションを作っていくはずだ。その流れの先に、宰相の席が待っているかもしれない。
だが政治というのは古今東西、「仮面ライダー」と「死神博士」の戦いのような勧善懲悪ストーリーだけで成立するわけでもない。子供番組のドラマツルギーでは通用しない世界。
また正義の味方というのは悪を倒すことにたけてはいても、その先に待っている「事」に、同じようにたけているかは別問題だろう。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。現在公開中の映画「ファストブレイク」に出演。1月22~26日には、東京・池袋「シアターグリーン BIG TREE THEATER」で上演の劇団アルファーvol.46「爺さんの空」に出演。