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第35回「高松宮殿下記念世界文化賞」に5氏 建築部門の坂茂氏は花園沸かせたラガーマン、紙管使った建築にトライ

zakzak by夕刊フジ 2024年9月11日 15時31分

世界の優れた芸術家を顕彰する「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催・公益財団法人日本美術協会=総裁・常陸宮殿下)の第35回受賞者が決まり、10日、パリ、ベルリン、東京など世界6都市で発表された。

今回の受賞者は、絵画部門=ソフィ・カル(70)<フランス>▽彫刻部門=ドリス・サルセド(65)<コロンビア>▽建築部門=坂茂(67)<日本>▽音楽部門=マリア・ジョアン・ピレシュ(80)<ポルトガル>▽演劇・映像部門=アン・リー(69)<台湾>の5部門5氏。賞金は各1500万円。受賞者総数は計180人。

次世代を担う若手芸術家を育成する「若手芸術家奨励制度」の第27回対象団体には、インドネシアのコムニタス・サリハラ芸術センターが選ばれた。

授賞式は11月19日、東京都内で開催される。

■絵画 ソフィ・カル氏 Sophie Calle

人生や日常の空間をアートに昇華させる斬新な作風で知られるコンセプチュアル・アーティスト。他者の声、姿への探求心を原点に、インタビューや自分の人生を素材に、写真と文字を組み合わせた作品を世に送り出す。

■彫刻 ドリス・サルセド氏 Doris Salcedo

南米コロンビア・ボゴタを拠点とした彫刻家、インスタレーション・アーティスト。内戦が創作活動の原点で、暴力の被害者がモチーフ。喪失や記憶、痛みなどのメタファー(隠喩)としての表現を追求している。

■建築 坂 茂 氏 Shigeru Ban

再生紙を使った「紙管」という独創的な素材による建築が、災害時の仮設住宅など国内外で評価され、革新的デザインとともに建築に新たな地平を切り開いた。設計と同時に災害支援にもライフワークとして取り組む。

■音楽 マリア・ジョアン・ピレシュ氏 Maria João Pires

現代を代表するピアニストの一人。国際舞台での活躍や、ドイツの名門「グラモフォン」で四半世紀にわたりレコーディングを行う傍ら、子供たちの合唱団結成など芸術を社会に還元する活動も行う。親日家でもある。

■演劇・映像 アン・リー氏 Ang Lee

台湾に生まれ、米国を中心に活動する映画監督。芸術性と娯楽性を両立させ、「ブロークバック・マウンテン」などでアカデミー賞監督賞を2度受賞。ベルリン、ベネチア両国際映画祭でも最高賞を2度受賞している。

会見に出席した坂氏は、尊敬する歴代受賞者3人に感謝した。世界的指揮者の小澤征爾さん(2011年音楽部門)、デザイナーの三宅一生さん(05年彫刻部門)、フライ・オットーさん(06年建築部門)の名前を挙げ、「同じ賞をいただけるなんて信じられない。お亡くなりになられたお三方のように、世界のために活動を続けていきたい」と感慨深げに話した。

「エコロジー」「サステナビリティ」といった言葉がなかった1980年代中頃のバブル期から、紙管という素材に着目。「とにかく身の回りにあるものを大切に使いたい」。展覧会の会場設計を行った際、仮設展示に使う木の代替材料を模索。ファクス紙の芯、再生紙でできた紙管を構造に使う開発を始めた。軽くて強い建築を目指し、新たな可能性を切り開いてきた。

活動のベースにあったのはラグビーだ。小学生で競技を始め、成蹊高では2年時に全国大会に出場、花園ラグビー場でプレーした。ポジションはフランカー、NO・8。

「ラグビーって本当につらい。まひして肉体的にも精神的にもつらい中で、喜びを見つけていくことが楽しみになってしまったんじゃないかな」と笑う。

全国大会初戦で強豪の大工大高(現常翔学園高)に敗れてラグビーを断念。中学の夏休みの課題で作った住宅模型をきっかけに志した建築家を目指した。高校卒業後に渡米して建築を学び、帰国して85年に事務所を立ち上げた。

災害ボランティアにも力を入れてきた。「地震で人は死なない。建築が崩れて人が死ぬ。建築家の責任もある」。紙管を使った94年のルワンダ内戦の難民シェルター、翌年の阪神淡路大震災のベトナム人難民のための仮設住宅建設などが高く評価。年始の能登半島地震やウクライナの難民支援にも乗り出している。

平時と非常時の両方で建築家の使命を果たしてきた坂氏。ラグビーで培った不屈の精神で乗り越えていく。

■坂茂(ばん・しげる) 1957年8月5日生まれ、67歳。東京都出身。成蹊高卒業後、渡米してクーパー・ユニオン建築学部などで学び、卒業し、帰国後の85年に坂茂建築設計を設立。紙管を利用した建築で95年の阪神大震災時に仮設住宅建設を手掛ける。海外の美術館や劇場など公共建築でも高い評価を得て、2014年に「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞を受賞。17年紫綬褒章。

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