いつ誰に習ったのか覚えがないのに知っていること(できること)――ってありますね。
たとえば<めちゃくちゃ熱いお茶が出てきた>として、そのとき、「熱っ」とか言いながらも、「ふぅ~」っと吹いたり、口をものすごく狭めて「ずっ…ずずっ」と、ちょっとずつ飲めます。そんな訓練受けてないし「きちんとやれ!」と叱られた覚えがないのにできてしまうでしょう。爪切りを練習した記憶はないし、お箸で絹ごし豆腐をつまめるようになってるのも不思議です。
で、こういう話題になった時に僕が必ず例に出すことがあるんです。ここからちょっと国語の時間。カタカナの「ロ」は何と読みますか?はい「ろ」ですね。カタカナの「ヤ」は? はい「や」です。それ以外の読み方があるでしょうか?
……実はあるんです。
これは何のことでしょうか?「ロ×楽」……「ろかけるらく」ではありませんよね。そう「ロッテ対楽天」です。「ロ」はロッテとも読むんです。はっきり言います「ロッテを意味する」ではなくて「ロッテと読む」んです。あなたは、頭の中ではっきりそう読んだはず。
「ヤ×広」も同じです。声に出して読む時「やかけるひろ」と読む人はいません。「ヤクルト対広島」と読むでしょう。
冒頭に書いた「いつ誰に習ったのか覚えがないのに知っていること」の代表がこれです。チーム名の都合の良い(そのチームだとわかる)一文字だけで、そのチーム名すべてを表すことになっているんだな、というルールをいつの間にか知っている。
チーム名に限らず、野球の打撃結果を表すワードもいつしか知っていますよね。たとえば、大谷翔平選手の今日の結果は「右飛・中安・空三振・左本」という記録があれば、これで伝わります。中には「捕邪飛」という三文字があると「あぁキャッチャーへのファウルフライか」とわかるでしょう?「邪はファウルのことだぞ。試験に出るからな」なんて勉強はしてません。学校では習わなかったのにいつの間にか知ってます。
ただ、そんな中にも、なぜ?!という例があるもので…。プロ野球チームの略語の一文字。阪神タイガースは「神」が使われますね。どうして「阪」じゃないのでしょうか? これには諸説あって「かつて阪神と阪急があったので区別するため」「阪神タイガースは正確には兵庫県がホームなのに〝阪〟だと大阪をイメージするから」など。いずれにしても「神」の一文字がチームを表すという、漢字の持つ応用力には感心させられますね。
■東野ひろあき(ひがしの・ひろあき) 1959年大阪生まれ、東京在住。テレビ・ラジオの企画・構成(山寺宏一&野沢雅子のFM大阪「ニュー・ノーマル・ライフ」など)、舞台脚本(「12人のおかしな大阪人」など)や演出(松平健とコロッケ「エンタメ魂」など)、ライブ企画&プロデュース(キムラ緑子と大谷亮介の「ドリー&タニーライブ」など)、コメディ研究(著書『モンティ・パイソン関西風味』など)、他幅広く活動。猫とボブ・ディランをこよなく愛するノマド。