町工場が集積する東大阪で一番の繁華街でもある、近鉄布施駅前の布施商店街。17の商店街組合からなり、全長1.8キロに現在は350店舗が軒を連ねる。毎年1月に開催される十日戎には〝日本一大きい〟えべっさんにあやかろうと3日間で約15万人が参拝。そんな大阪を代表する商店街でも、近年はシャッターを下ろす店舗が目立つようになってきた。
「不動産仲介を通して町の変化を見てきたなかで、もっと世の中の役に立つ仕事をしたい。単なる建築事務所にとどまらずに地域に新しい価値を創出できるような事業をしたい」と立ち上がったのが、セカイホテル(東大阪市)だ。
土地の紹介から施工までリノベーションを一括で手がけるクジラ(大阪市北区)の新規事業としてスタート。セカイホテル・フセは2018年9月に開業した。商店街は元々、外の人を受け入れる土壌がある。そのうえ、布施は大阪市内や空港からのアクセスが抜群で、人柄を重視する地元民の人情味が出店の決め手になったという。
セカイホテルのコンセプトは、商店街まるごとの〝まちごとホテル〟。まち全体を一つのホテルに見立て、客室とレストラン、大浴場などホテルの機能を分散させて事業展開している。客室は商店街に点在する空き家をリノベーションし、〝泊まれる工場〟として再生。商店街の昭和レトロな喫茶店で朝食を味わい、昔ながらの銭湯を大浴場として利用できる。地元事業者と提携することで、増えつつある空き家対策と商店街の活性化も兼ねているのが特徴だ。
「旅先の日常に飛び込もう」をテーマに、地域の文化や暮らしを体験できるサービスも大きな魅力。例えば、たこ焼き店や立ち飲み屋とコラボして、宿泊プランに地元グルメを加えたほか、布施の妖怪伝説をテーマにした祭りも企画。宿泊客が街に溶け込める仕掛けを随所に取り入れている。
プランを企画する際は、実際に町を回って店主と話し、宿泊客と同じ感覚でアイデアを出していく。
「冬の夕食付きプランでふぐを取り入れたときは、ふぐを1匹つぶす、という独特の表現がおもしろいと感じた。大阪の町を知ってもらう入り口になると思った」と、セカイホテル広報担当の北川茉莉氏は話す。朝食のたまごサンドが厚焼き卵なのも岐阜出身の北川氏にとっては新鮮だったという。
「たとえば、東南アジアで現地の人と関わりたいという欲求があってもなかなかできないが、ここではその欲求を実現できる町の仕組みを整えている」。
取材NGの隠れた名店「大衆居酒屋 淡路屋」で常連おすすめのメニューを注文したり、銭湯で常連さんにお風呂の入り方を教わったり、大阪の下町ならではの体験が多くの旅好きを魅了している。
公式LINEではまちごとホテルの完全攻略ガイドを掲載。そのときの気分にあわせて楽しみ方やおすすめ店舗を紹介してくれるのも好評だ。