今年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」には、いくつかの「?」がある。これまではタイトルを見聞きすると、何となく「その時代」や「主人公」が連想できた。
例えば、昨年の「光る君へ」は光源氏を連想させ、やはり舞台は平安時代で、紫式部中心のドラマだった。一昨年の「どうする家康」は、徳川家康が主人公でなければ詐欺って話だ。その前年の「鎌倉殿の13人」は、タイトルが「時代」を教えてくれていた。
それ以前の「麒麟が来る」と「青天を衝け」は、タイトルだけでは時代を特定できないが、「麒麟」も「青天」もともに「いい言葉」の部類である。
ところが、今年はいきなり「べらぼう」である。時代は特定できないし、これは決して「いい種類の言葉」でもない。
いま、たまたまパソコンが鎮座まします小生の机の上にある三省堂の『新明解国語辞典第4版』によれば、「べらぼう」とは「①ばか(もの)②程度がひどい様子」とある。
「べらぼう」の語源については定説がない。
一説によると、世の中でただ飯を食うだけが一人前で、他に何の役にも立たない者を「穀(ごく)つぶし」いう。ご飯粒を一粒一粒潰してペースト状にしたのが目に見える「穀つぶし」状態。そのペースト状のご飯、つまり、「穀つぶし飯」を完成させるときに使うのが、平たい棒状の「へら」、もしくは「ヘラ棒」と言った。穀つぶし以外に取りえがないバカ男のことを、江戸っ子がシャレを効かせて「ヘラ棒」と言い、それがいつしか「べらぼう」に転化した、というのだ。
江戸っ子の活きのいい若者が口げんかの時や、あいさつ代わりに、「てやんでい、べらぼうめ」と啖呵(たんか)をきる。一心太助の世界で横行した言葉という印象がある。活きはいいが、あまり上品な言葉ではない。
今年の大河ドラマのタイトルについて言えることが、もう一つ。それは、「これまであまり例を見ない長いサブタイトル付き」ということである。漢字で7文字。平仮名にすると、実に14文字にもなる。
「―蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」
読めたとして、「じゃあ、この蔦重って何?」ということになる。実は、この「蔦重」こそが、今年の大河ドラマの主人公なのである。このことについては、明日に稿を改めて、少しく詳しく。
■松平定知(まつだいら・さだとも) 1944年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、69年にNHK入局。看板キャスターとして、朝と夜の「7時のテレビニュース」「その時歴史が動いた」などを担当。理事待遇アナウンサー。2007年に退職。現在、京都芸術大学教授などを務める。著書に『幕末維新を「本当に」動かした10人』(小学館101新書)、『一城一話55の物語』(講談社ビーシー)など多数。現在、アマゾンのオーディオブック「Audible(オーディブル)」で、北方謙三著「水滸伝シリーズ」(集英社刊)などの朗読作品を配信中。