石破茂首相は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、G20(20カ国・地域)の両首脳会議に出席するため、14日から南米を訪問する。南米ペルーの首都リマでは15日、ジョー・バイデン米大統領や、中国の習近平国家主席との初会談を調整している。ただ、唯一の同盟国のリーダーは来年1月20日以降、ドナルド・トランプ前大統領となる。トランプ氏の復活で「保守化」する米国と、石破政権によって「左傾化」する日本。「憲法改正」は棚上げになり、「選択的夫婦別姓」は実現の可能性が強くなり、皇統の断絶につながる「女系天皇」も浮上しかねないという。フジテレビ客員解説委員の平井文夫氏が、わが国が直面する重大懸念に迫った。
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トランプ復活で米は「保守化」
衆院選で自民党が大敗し、石破政権が少数与党となった日から10日後に、米国ではトランプ前大統領の返り咲きが決まった。2つの大国での「政変」の共通理由は、「国民の現政権に対する怒り」だ。
インフレによる物価高が政権に逆風になったのは、日米というより世界共通だ。米国ではこれに加えて、不法移民など民主党政権による偏った人権政策に対する不信感が、トランプ圧勝に結びついた。
日本ではもう少し複雑で、政治資金の不記載問題が自民党を苦しめたうえ、選挙戦最終盤での「非公認」候補への「2000万円支給問題」がトドメを刺した。
だが、これだけで自民党が比例票を前回から530万票以上減らし、保守系の参政党と日本保守党が合わせて約300万票を獲得した理由を説明できない。
おそらく、岸田文雄政権でLGBT理解増進法を成立させた後、「選択的夫婦別姓」や「女系天皇」に理解を示す石破首相(総裁)率いる自民党を、保守派が「見限った」ということだろう。
立憲民主党は比例は前回から7万票増の横ばい。それでも小選挙区で議席を増やしたのは、自民党が小選挙区で大幅に票を減らしたからで、結果的に政権を取るほどの規模にはならなかった。
一方、国民民主党は比例票を360万票増やして議席を4倍増させ、キャスチングボートを握ることになった。
「国民の怒り」日米で逆方向へ
与党大敗の理由は、日米とも「政権に対する国民の怒り」で同じなのだが、今後2つの大国はそれぞれ逆の方向に向かう。
トランプ氏は選挙戦で「不法移民の強制送還」を公約にしていた。さらに、報道によると「性別の変更をできないようにする」ことを検討しており、これだとトランスジェンダーを法的に認めないことになる。つまり米国は「保守の方向」に大きくかじを切る。
「これが民意だ」少数与党の弱み
一方の日本では、自民党が野党第1党の立憲民主党に衆院憲法審査会の会長ポストや、衆院法務委員会の委員長ポストを譲った。立憲民主党の野田佳彦代表は8日、党のX(旧ツイッター)の動画で、衆院法務委員長のポストを確保したのは「選択的夫婦別姓の実現」が狙いと明かしている。
これにより、「憲法改正は棚上げ」「選択的夫婦別姓は実現」の可能性が強くなってきた。「女系天皇」もどうなるか分からない。日本は「左傾化」する。
国民民主党の与党への要求は、ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項解除」にせよ、「年収103万円の壁」にせよ「減税」なので、これまでより保守的な経済政策が行われることになる。
ただ、議会運営では、数の多い立憲民主党がいくつかの委員会で主導権を握り、かつ国民民主党や与党・公明党までがリベラルな政策に賛成をする可能性が高い。前述のように、結果的に「夫婦別姓」が実現してしまうかもしれない。
保守派にとっては悪夢だが、「これが民意だ」と言われればどうしようもない。少数与党は、野党にさまざまな妥協を行わないと政権運営ができないからだ。
石破首相は11日夜の記者会見で、少数与党について、「こういう状況は、民主主義にとって望ましいことなのかもしれない」と述べたが、「左傾化」によって日本は壊れていくのではないか。
石破首相の「選択的夫婦別姓」と「女系天皇」に関する発言
石破首相は9月の自民党総裁選では「選択的夫婦別姓の導入」に前向きな姿勢を示していたが、10月7日の衆院本会議での代表質問では、「国民の間にさまざまな意見があり、政府としては国民各層の意見や国会での議論の動向を踏まえ、さらに検討する必要がある」と、岸田文雄前政権の見解を踏襲した。
石破首相は6月18日のBSフジの番組で、安定的な皇位継承策をめぐり、「男系優先に決まっているが、女系を完璧に否定していいのか」などと、「女系天皇」に含みを持たせる発言をしている。
平井文夫(ひらい・ふみお) フジテレビ客員解説委員。1959年、長崎市生まれ。立命館大学経済学部卒業後、フジテレビジョンに入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスターなどを務める。現在、ジャーナリストや政治評論家としても幅広く活躍している。