自公連立政権は10月の衆院選の結果、衆院では過半数に満たない少数与党に転落した。その自民党と公明党だが、一枚岩ではないようだ。
公明党は自らも大幅に議席を減らしたが、自民党が弱っているところに付け入り、他党と組んで自らの主張を飲ませようとしている。
政治資金関連の法改正では、公明党は国民民主党と第三者機関を設置する法案を共同提出した。自民党が単独で提出した法案は、第三者機関の監査対象を、プライバシー保護などを理由に使途を非公開にできる「公開方法工夫支出」に限定していた。
自民党は、公明党と国民民主党が共同提出した、政治資金収支報告書に虚偽の記載や記載漏れの訂正を求める権限を第三者機関に付与する法案を受け入れ、支出公開に例外を設けることを断念した。公明党が、国民民主党を味方に付けて自民党を押し切ったかたちだ。
同じことは選択的夫婦別姓制の導入をめぐっても起きようとしている。
公明党の斉藤鉄夫代表は18日、首相官邸で石破茂首相と会談し、選択的夫婦別姓制の早期実現に向けて与党協議の場を設置するよう提案した。首相は「党内で協議する」と引き取った。斉藤氏は、子が複数いる場合の姓の決め方など「与党の意見をしっかりまとめる作業を進めていこう」と呼びかけたという(産経新聞19日付)。
16日の参院予算委員会では、公明党の佐々木さやか議員が、選択的夫婦別姓制の法制化について石破首相に内閣提出法案(閣法)で出す考えはないかと迫った。首相は「現段階で閣法を優先する考えはない」と答弁した。そのうえで、「いつまでも引き延ばしていいという話ではない。(党内議論について)どのように頻度や熟度を上げていくか、明確な方向性を出したい」とも述べた(時事通信16日付)。
すでに議員立法案用意
選択的夫婦別姓制の導入には、民法の改正が必要になる。民法の改正は通常、閣法で行われる。その際は法制審議会で数年間の議論を経て法案が提出される。法務省は1996年と2010年に法案提出の準備をしたが、提出には至らなかった。法案作成はしていない。佐々木氏が求める閣法であれば、法制審での改めての議論が必要になる。
ただし、議員立法でも民法の改正は可能だ。すでに公明党は議員立法案を持っている。立憲民主党案とほぼ同じ内容で、子が複数の場合は姓がバラバラでもよいとし、家族統一の姓はなくなる。戸籍のフォーム自体の改変をも必要とする大掛かりで過激なものだ。
公明党は立憲民主党と法案を共同提出するとして、自民党を揺さぶるのか。
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員も歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。