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介護現場とテクノロジー 排泄センサーが教えてくれた〝思いの総量〟 解決策を考えるのはテクノロジーではなく現場のプロ 宮崎市・グループホーム太陽の丘

zakzak by夕刊フジ 2024年7月30日 13時40分

介護領域では近年、「生産性向上」というフレーズが連呼されている。人口減少や高齢化の進展、深刻な人材不足などを背景に少ない人員でも現場が回るようになることが喫緊の課題とされる。一方、「生産性という言葉はそもそも介護に合わない」という指摘もある。効率性や採算性を尊ぶあまり、介護の質が軽視されるのではないかといった危惧の声もある。

「介護現場の生産性向上をあえて言語化するとすれば、それは《配慮》ではないでしょうか。言いたいけれど言えないという遠慮や羞恥心を汲み取り、察知することが生産性向上につながると考えています」

こう語るのはグループホーム太陽の丘(宮崎市)の所長を務める川名峰幸さんだ。同施設では、トイレ介助の声がけ一つにも細心の注意を払う。「お手洗いに行きませんか?」「トイレは大丈夫ですか」という直接的な言い回しは避ける。その代わりに「お茶を飲みませんか」「外出しませんか」など、タイミングを見計らって声をかける。ぶしつけに聞かれると、トイレに行きたくても「行きたい」とは言えなくなる。失禁はもちろん、イライラや不信感が募るなど関係悪化にもつながりかねないという。

「介護は《人対人》の仕事なので非常にデリケートな領域の支援をしなければいけない場面も多い。排泄介助はまさにその代表例です」

では、排泄介助の分野でテクノロジーはどう活躍しているのか。川名さんは次のように解説する。

「うちの場合は排泄センサーを導入し、いちばん変わったのは職員の排泄に対する考え方です。画期的だったのは排泄が分かることではなく、そこには〝排泄をしたい気持ちがある〟ということを私たちに知らしめてくれたことだと思います。24時間のグラフを見るだけでも、こんなにもご本人はトイレに行きたいという気持ちを持っておられるということが可視化される。そこには言葉にされずに来た意思や思いが詰まっているんです」

排泄の検知記録や通知記録は単なる数字の羅列ではなく、思いの総量だと川名さんは語る。

「もっとも、この思いを知ったところでどうするか解決策を考えるのはテクノロジーではなく、私たち現場のプロです」

太陽の丘では、おむつ前提だった排泄状況が排泄センサー導入以降、自力でのトイレ排泄に移行するなどさまざまな好事例が相次いでいる。

「私たちはテクノロジーを活用するにあたって《6対3対1の法則》を大切にしています。6割は人が考えること、3割はオペレーション、残り1割が技術だという。

「テクノロジーに対する違和感を覚える一方で、いざ使い始めると6割以上を頼り、身を委ねてしまった介護現場のケースは後を絶ちません」

食わず嫌いも問題だが、頼りすぎもマズい。自分ならどのように対応できるのか、どう対応したいのか。シミュレーションを重ねることも未来のありたい自分に近づく布石となる。 (取材・島影真奈美) =あすにつづく

■島影真奈美(しまかげ・まなみ) ライター/老年学研究者。1973年宮城県生まれ。シニアカルチャー、ビジネス、マネーなどの分野を中心に取材・執筆を行う傍ら、桜美林大学大学院老年学研究科に在籍。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)、『親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと』(WAVE出版)。

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