11月17日は『将棋の日』。この日は江戸時代、将軍の前で家元が将棋を指して披露した日であり、この日の前後に将棋界では、秋の表彰式が行われる。
春の表彰は「将棋大賞」を核として、年間で活躍した棋士が主な対象。そのほか前年度に昇段した棋士への免状も渡される。
しかし秋は将棋界の発展や普及に尽力した、個人や企業への表彰が主になる。
今年は日本将棋連盟が創立100周年という節目もあって、多くの方や団体に感謝状が贈られた。
企業ではタイトル戦の協賛社が多かった。竜王戦の野村ホールディングスや、名人戦の大和証券グループ本社、叡王戦を主催する不二家、特別協賛のレオス・キャピタルワークス、協賛の豊田自動織機、豊田通商等々。
こんなに多くの企業に支えられているのかと、驚きと感謝でいっぱいだった。
以前は有名旅館だけで行われていたタイトル戦は、今や協賛社の地元や地方からの誘致で、全国で行われるようになった。ファンと棋士が交流する機会が多くなったのだ。
棋士関係では通算勝ち星による表彰があり、特別将棋栄誉賞(1000勝)に丸山忠久九段。将棋栄誉敢闘賞(800勝)に私、青野九段。将棋栄誉賞(600勝)が富岡英作九段、神谷広志八段に授与された。
今年の6月で引退した私と違い、現役棋士はこれからも勝ち星を積み上げていくはず。
何せ故大山康晴十五世名人は、1000勝が54歳の時で、それから亡くなるまでの15年間で、433勝を積み上げたのだから。
歳を取ってからの1勝の重みは、年配になれば誰でも分かるから、同じ54歳の丸山に言ったのは、プレッシャーになったかもしれないと反省。
他に勤続表彰もあり、40年が日浦市郎八段、富岡九段と、清水市代女流七段。女流プロは、今年50年の節目を迎えたから、これから勤続40年選手が続々と出ることだろう。
また意外だったのが、まだ25年かと思わせた、渡辺明九段。阿久津主税八段、飯島栄治八段と共に表彰された。
渡辺は竜王戦9連覇で、永世竜王となり、名人も3期。
この度「紫綬褒章」を授与されるなど、長年活躍した印象があるが、つくづくこの世界は歳でなく、実力の世界だと思わせた。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。