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トップ直撃 日本女子大学・今市涼子理事長 元祖リケジョが描く、女子大の新たな進路 「文理融合」「STEAM教育」で凜と輝く女性に

zakzak by夕刊フジ 2024年8月6日 6時30分

日本初の女子大学として、1901(明治34)年に創立された日本女子大学は、2021年に創立120周年を迎えた。前年の20年から理事長を務める今市涼子氏(75)は、植物学者としても日本の第一人者だ。熱帯で見たジャングルの美しさを語る〝元祖リケジョ〟の今市氏は、文系・理系の枠にとらわれないキャンパス統合を実現し、「いま、女子大だからこその新たな可能性を感じている」と話す。

――2021年に創立120周年を迎えました

「120周年を機に、西生田(川崎市)にあった大学のキャンパスを21年から目白キャンパスに統合して『目白の森のキャンパス』をコンセプトに再整備しました。学部・学科再編も進め、現在は6学部約6000人の学生がワンキャンパスで学んでいます。文系・理系にとらわれず、幅広い知識と能力を身に着ける『文理融合』の教育環境の基盤がかなりできてきました。私立女子大では唯一、理学部もあります」

――日本女子大と聞いてすぐに理系のイメージは浮かびませんでした

「ないでしょう? そこが問題なんですよ。だからいまSNSなども使い広報に注力しています。ただ、かくいう私も本学出身ですが、実は受験するまで理系分野があることを知りませんでした。1901年に本学を創設した成瀬仁蔵は自然科学を学ぶ重要性を理解していて、私が在学中は家政学部のなかに『家政理学科』があり、生物、科学、化学、物理、数学とそろっていました。現在も、Sciense(サイエンス)、Technology(テクノロジー)、Engineering(エンジニアリング)、Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字をとった『STEAM教育』を掲げています。私も日本女子大に通わなければ植物学者にはなっていなかったと思います」

――理事長として苦労したことは

「本学は幼稚園から大学・大学院まで持っているので、一貫校として全体に気を配らなければならないことには大変苦労します。大学の学部・学科の再編においても、本学にはもともと家政学部に含まれる形で多彩な学科が存在していました。それらを現在に合う形への『見える化』に取り組んでいますが、時には経営の立場からシビアな判断を下さなければならない場面もあります」

――2024年度には「建築デザイン学部」も新設しました

「建築家の篠原聡子学長は、本学の家政学部住居学科の出身ですが、新学部では、世界的建築家の隈(くま)研吾氏、本学出身で〝建築界のノーベル賞〟と呼ばれる米プリツカー賞などを受賞している妹島(せじま)和世氏、同じく本学出身で日本を代表する建築家の東利恵氏が特別招聘(しょうへい)教授に就任しました。妹島さんは図書館や学生棟をはじめ、目白のキャンパスをデザインしてくれました。27年度には家政学部家政経済学科を前身とした『経済学部(仮称)』の開設も構想中です」

――少子化や社会の変化で女子大には逆風が吹いていますか

「メディアは『女子大の危機』とおっしゃるが、私は逆にいま、女子大だからこその新たな可能性を感じています。私自身も本学での学生時代に経験しましたが、男子学生がいない環境では、いままで自分の内面に持っていた能力が引き出される場面もあるんですよ。本学の学生たちを見ていても、大学や教員に対して率直な意見を言いますからね」

――独立心が強くなる

「近年『アントレプレナーシップ(起業家精神)教育』の必要性を政府もやっと言い始めましたが、うちの卒業生たちは、女子大学の中で、医大を除いて女性経営者の輩出でトップなんですよ。本学には時代の先駆者となる自立した女性を育てる素地があります。理事長になってからは特に『STEAM教育』とともに『グローバル教育』『キャリア教育』の3本柱に注力しています。幼稚園から大学まで、さらにその先の生涯学習に至るまで、学園としての一貫教育を、いまの時代に合わせながら、どんどん進化させていきたいと願っています」

忘れられないインドネシアで見たジャングルの美しさ

【植物学者】幼少期から外で遊ぶのが好きだったが、中学時代に「ハイキングに行くから」と誘われて生物部へ入部したのが植物について学ぶきっかけとなった。日本女子大の家政理学科進学の際は「受験科目が英数国で理科がなかったのでラッキーでした」と笑う。シダ植物・種子植物の進化形態学分野での第一人者となり、今年3月に女性の研究者として初めて日本植物分類学会賞を受賞した。

【調査旅行】植物の海外調査旅行は35歳で行ったインドネシアから2004年のカメルーンまで通算16カ国。当時の経験が、理事長としての学校経営でも役立ったという。「決断が早い。また論理立てて整理をするのが得意な点は、研究者の良かった部分が生かされたと思います」

印象的だったのはインドネシアで見たジャングルの美しさだという。「ジャングルって足を踏み入れられないような濃密なイメージだと思いますが、それは二次林の場合で、本来、植物の種類は多様でかつ下生えも少なくきれいで、周りを見渡すと同じ種類の植物が1本もないぐらい。いまでも、ときどき何もかも忘れて『あのジャングルのなかに行きたい』と思います」

【手放せない一品】マラリア原虫の顕微鏡写真。1993年にニューギニアへの調査旅行から帰国後、マラリアを発症した。「42度の熱が続きましたが、幸運にも『熱帯熱マラリア』ではなく『3日マラリア』で助かりました。退院時、病院の医師にお願いして、血球中にいる多くのマラリアの原虫の顕微鏡写真をもらいました。勲章のようなものです」

【お酒】「私たちの若い頃は、お酒が飲めてなんぼだったし、好きだった」という〝酒豪〟で世界の酒を楽しんだ。「思い出すのはインドネシアの山奥の集落で飲んだ、ヤシの花序軸を切断して袋をかぶせて集めた樹液を発酵させたお酒。おいしかったですね」

【最高の瞬間】「熱帯で、これはなんだ? あり得ないという変な植物に出会ったときで、過去衝撃を受けたのはショクダイオオコンニャクの仲間」だという。

花を咲かせるときに動物が腐敗したような臭いを出してハエなどを呼ぶ。「もうかぎたくない。あの臭いは」

【座右の銘】《意志あるところに道は開ける》。いまの仕事についていなかったら「起業していたかも」という。好きな字は「佳」。「賢さの中にほのぼのとした良さが感じられ、すごくバランスが取れているイメージ。私はアグレッシブに思われるんですが、性格は全然激しくないんですよ」

2021年に創立120周年

【大学メモ】1901年創立。山口県の士族に生まれ、後に牧師、教育者となった初代校長の成瀬仁蔵が、設立者総代の大隈重信らの助力を得て、日本初の女子大学校として日本女子大学校附属高等女学校とともに開校した。第3代校長は渋沢栄一。成瀬が遺した教育理念である三綱領「信念徹底」「自発創生」「共同奉仕」を掲げ、日本の女子教育の先駆けとなった。現在は建築デザイン学部、国際文化学部、理学部など6学部で在校生は6214人(今年5月1日現在)。大学院、通信教育課程も持ち、附属幼稚園から大学までの一貫教育も特色。

今市涼子(いまいち・りょうこ) 1948年12月生まれ、75歳。東京都出身。71年日本女子大学家政学部家政理学科Ⅱ部卒業、77年お茶の水女子大学大学院理学研究科修了。83年京都大学理学博士。95年玉川大学農学部教授、97年日本女子大学理学部教授などを歴任し、2020年に日本女子大学理事長に就任する。22年から東京商工会議所の1号議員および特別顧問も務める。

(ペン・丸山汎/カメラ・寺河内美奈)

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