衆院選で惨敗して自公与党が過半数割れとなり、「史上最短」になるかと思われた石破茂政権だが、意外としぶとく生き残るかもしれない。11日に召集された特別国会で、石破首相は決選投票で第103代首相に選出され、第2次石破内閣を発足させた。
政権交代が不発だったのは野党第1党の立憲民主党に、石破政権を脅かす力がないためだ。衆院選で98議席から148議席に躍進したが、内容を詳細に分析すると、興味深いことが浮き彫りになる。
比例区の得票は前回比で7万2106票しか増えなかった。小選挙区に至っては、同比147万4761票も得票を減らした。これでは、「党勢拡大」とは言い難い。
政局混迷のなか、「政権交代を実現させるため」というお題目のもと、執拗(しつよう)な〝圧力〟もかけられ続けた。
標的は、公示前から4倍増の28議席を獲得した、玉木雄一郎代表率いる国民民主党だ。首相指名で玉木氏を推すと明言していたが、玉木氏や榛葉賀津也幹事長の記者会見では、「立憲民主党の野田佳彦代表に投じるべきだ」との主張が繰り返された。テレビの討論番組でも、「政党の党首を担う政治家としてあるまじき」という強烈な批判も出た。
こうした主張は筋違いだ。
そもそも、国民民主党が野田氏を推しても、過半数に達することはない。立憲民主党と、野党第2党の日本維新の会(38議席)は、外交・安全保障政策などで隔たりがある。野田氏との党首会談(10月31日)で、首相指名の連携を打診された日本維新の会の馬場伸幸代表は、色よい返事をしなかった。日本保守党などの新興保守勢力は首相指名で「野田佳彦」と書くはずがなかった。
さらに言えば、衆院選で国民民主党を推した有権者が、野田政権誕生を希望したわけではない点に注目すべきだ。
選挙戦で国民民主党は「政治とカネ」の問題とは距離を置き、手取り増や減税などの「政策論」と「実現力」のアピールに徹した。「対決より解決」を旗印に、是々非々で臨む姿勢が支持されただけに、首相指名でいずれかを肩入れする選択肢はなかった。
世論が政権交代を望んでいたら、国民民主党への票の多くが、野党第1党の立憲民主党に投じられていたはずだ。政権交代だけが「民意」とはいえない現実がそこにある。
安倍晋三政権や菅義偉政権での「1強多弱」時代は終わった。政党間格差は縮まり、国政に世論の多様な意思が反映される好機ともいえる。
自民党は衆院予算委員長をはじめ、重要ポストを立憲民主党に渡した。懐柔して石破政権延命を図る魂胆だろう。選挙結果の分析を怠り、現状に甘んじるばかりでは、立憲民主党が政権を奪取することなど不可能ではないか。 (政治ジャーナリスト・安積明子)