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日本の解き方 「減税で税収増」はウソなのか 簡単な計算でわかる経済効果 マクロ経済への好影響は事実だが…税制改革で考慮されぬ不可解

zakzak by夕刊フジ 2025年1月22日 6時30分

先日、経済紙に興味深い匿名コラムが掲載された。「年収103万円の壁」撤廃を主張する国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止中)らの発信が耳目を集めるなかで、「『減税すれば経済が活性化し増収になる』などとおよそ事実とは異なる言説が流布した」としている。

1980年代のロナルド・レーガン元米大統領時代の経済政策「レーガノミクス」でも「減税による増収」がうたわれたが、「ブードゥー(呪術)経済学」だと批判された。

レーガノミクスでは「ラッファーカーブ」と呼ばれる極めてラフな分析が用いられた。これは、税率0%ならば税収は0、一方で税率100%でも経済活動はなく税収は0になるということを前提としたものだ。「税率0%から100%の間のどこかに税収の最高点がある」という極めてナイーブな前提に基づき、「今の税率は税収の最高点に対応する税率より高い」という根拠のない前提で、減税すれば税収が増えるというものだった。レーガン政権では、こうした理屈に基づいて減税したところ、財政赤字が拡大した。

いまラッファーカーブによる「減税で増収」を信じる人はいない。現状ではもう少し実証的な経済分析に基づく議論が必要だ。①減税が名目経済成長をどのくらい上げるか(減税の乗数効果)と②名目経済成長がどのくらい税収に結びつくか(税収の弾性値)がポイントとなる。

①について、伝統的ケインズモデルでは、政府支出などによる「支出乗数」の方が「減税乗数」より大きい、つまり政府支出の方が経済効果が高いというのが常識だった。だが、最近の研究では、公共投資などの政府支出より、減税の方が乗数効果が高いことが知られている。『21世紀の財政政策』(オリヴィエ・ブランシャール著)によれば、支出乗数は0・6から1・0だが、減税の乗数は1・0から5・0となっている。

筆者も、内閣府の経済予測モデルは減税乗数が0・2程度で、非常に低いと指摘した。

冒頭の匿名コラムを書いたのは、財務省出身の学者ではないかと筆者はみている。それはさておき、コラムでは②について「税収弾性値が2や3というのは名目成長率の低いデフレ時代の異常値」で、実際には1程度だとする。現に2019年度や20年度の税収実績は政府見通しを下回ったと主張する。

しかし、19年度は消費税率の引き上げ、20年度はコロナ禍による経済の低迷があった。こちらがむしろ「異常値」だ。

簡単な計算をしてみよう。6兆円を減税した場合、減税乗数が仮に3なら名目国内総生産(GDP)は18兆円増える。これは名目GDP成長率にすると3%である。その上で税収弾性値を仮に3とすると、税収は9%伸びることになる。年約70兆円の税収の9%といえば6兆円余りで、減税した6兆円がほとんど返ってくる計算だ。数値を変えても、減税で大幅減収になるわけではないことが分かる。

しかしながら、こうした計算が税制改革議論で行われることはない。減税がマクロ経済に好影響を与えるのは事実だが、それが考慮されないのである。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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