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ぴいぷる シンガーソングライター・南こうせつ おいちゃんの歌は〝生きる〟ということ 哀愁感じた父にエールを送る名曲「うちのお父さん」

zakzak by夕刊フジ 2024年8月9日 6時30分

フェスの主催は大変

1981年、熊本で伝説の野外フェスが生まれた。それが「サマーピクニック」だ。自身の呼びかけで、90年までの10年間、そしてその後の4回、開催されたイベントには、おいちゃんを慕って多くのアーティストが出演してきた。

今回、9月23日、日本武道館(東京都千代田区)で再び「サマーピクニック」を開催する。しかし、今度は「ラスト」と銘打っている。「ラストサマーピクニックin武道館」だ。

「実はね、前回(2019年)で終わるつもりだったの。で、『さよなら』って付けようと思ったら、ファンの方々がそれは寂しすぎると言うので『さよなら、またね』というタイトルにしたんです。すると2、3年前から、ファンの方たちが『またね』って言いましたよねと迫ってくるんですよ。正直、フェスの主催は大変。だから、今度こそ最後だよという思いを込めて『ラスト』にしたんです」

確かに主催するとなると、会場押さえからゲストの人選、その他諸々、何から何まで目を配らないといけない。

「若いころは大変さよりも、楽しさで動いていたけれど、やっぱりものすごく神経使うんですよ。最近じゃ線状降水帯なんてこともあって、中止になったらどうするとかもあるし、もう胃が痛いなんてもんじゃないの。中止にでもなろうものなら、おいちゃんは地獄に落ちてしまう(笑)。なんで屋根があるところでやろうと思い、武道館にしたんです」

今回は盟友でもあるさだまさし、森山良子が出演する。気の置けない仲間とのライブはまさにデビュー55年目の集大成といえるだろう。

では、今もなお、歌い続けるのはなぜだろう。歌とはいったい、どういう存在なのか。

「うーん、そうだなあ。私の命かもしれないね。そう、命そのものですね。命と言ってもいいし、心とも言える。歌うってことは、命を表現する、生きるっていうことを表現することなんだよな。だから、生きるということかもしれないね」

そして、歌が好きだといってやまない。

「当時のライバルだった井上陽水がいい歌を歌っていたら、いいメロディーだななんて感心しちゃう。そういうタイプなんです。ザ・フォーククルセダーズの『帰って来たヨッパライ』には楽しい曲だなとか、矢沢永吉をみてサングラスかけようかなとか、お前のポリシーは何だとか言われちゃいそうだけど、歌が好きなんだから。そんな好奇心は今でもありますよ、ジャンルなんて関係ないんだよね」

「うちのお父さん」

そう、おいちゃんの音楽性の幅広さはこういうところから生まれているのだ。

代表曲も数々ある。そんな中で、おいちゃんの優しい人柄がにじみ出ているのは、かぐや姫時代の「うちのお父さん」だろう。世に母を慕う曲は多いが、なぜ父をモチーフにしたのか。

「うちの父は大分の田舎町のお寺の住職でしたが、家では母が強くてね(笑)、母には逆らえない父でした。それでも子供4人を食べさせないといけないから、お経を読んで、お布施をいただいて。それと同時に田舎なので畑を作って、トウモロコシやきゅうり、ナス、カボチャを植えている。たまに子供たちを喜ばせようとスイカを植えたりしてね。で家に帰ると五右衛門風呂に入って、ふーとため息をついて歌うのは〝おれは河原の枯れすすき〟…『船頭小唄』ですよ。子供心に、また母ともめたのかな、なんて思ったりして。哀愁を感じてました、いつも。そんなお父さんにエールを送りたかったんですよ」

米ロスでのコンサートの終演後、観客の女性にどの曲がよかったかと聞いたところ、「『神田川』では泣かなかったけど、『うちのお父さん』で泣いたと言われたんです」と振り返る。近ごろの父親はまきは割らないけれど、家族を支える姿は変わらない。そんな何気ないところに幸せを感じさせてくれる。

「人間って必ず死ぬんです。死ぬ時は死ぬ、というのが、私の最近の座右の銘なんです。だから毎日、今という時を過ごせることに感謝して、そこに幸せを見つけるんです。でも、そう感じるのはやっぱり仕事じゃ出ない。美しい景色や美しい映画、美しい女性にピピピッてくるものがあった時、ワクワクする。これはいくつになっても同じこと。お金があれば、僕だってうれしい。でも、それでは基本的な幸せには行きつかないんだな」

(ペン・福田哲士 / カメラ・鴨志田拓海)

■南こうせつ(みなみ・こうせつ) シンガー・ソングライター。1949年2月13日生まれ、75歳。大分県出身。70年にソロデビュー。その後、山田パンダ、伊勢正三とかぐや姫を結成し、「神田川」「赤ちょうちん」「妹」などのヒットを飛ばす。75年の解散後はソロとして「夏の少女」「夢一夜」などがヒット。76年には日本人のソロのシンガー・ソングライターとして初めて武道館でコンサートを開催する。86年からは「広島ピースコンサート」を10年間開催する。現在もコンサートを中心に活動を続けている。

「ラストサマーピクニックin武道館」は9月23日、日本武道館で開催。問い合わせはキョードー東京(0570・550・799、平日午前11時~午後6時、土日祝午前10時~午後6時)。

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