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トップ直撃 YKK・大谷裕明社長 「善の巡環」で持続可能な経営へ どの国、地域でも「来てくれてよかった」と思われるよう活動

zakzak by夕刊フジ 2024年7月30日 11時0分

YKKはファスナーの世界トップブランドだ。米国、欧州、中国、アジアなどで世界地域経営体制を展開。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢など世界が不安定な中で、グローバル経営のかじ取りができたのは、YKKの精神「善の巡環」を理解した国内外社員の自発的な取り組みが大きい。「今後も世界の多様な人材を大切にしていく」と大谷裕明社長(64)は話す。

――コロナ禍では厳しい局面に立たされました

「2020年第1四半期は世界の経済活動が止まり、受注に急ブレーキがかかりました。日米欧の加工輸出のオーダーが東南・南アジアに落とされない。中国の内需が動いているぐらいで非常に厳しい状況でしたが、『善の巡環』の精神で社員の雇用を守ることに注力しました。20年後半からは徐々にオーダーが入ってくるようになりました。コロナ後も、社会、お客さま、取引先、社員のためになることを考え、経営の根幹である『善の巡環』に基づき、より良いものをより安く、より早く提供しお客さまの信頼を得る、サステナブル(持続可能な)経営を目指しています」

――「善の巡環」とは

「創業者の吉田忠雄が打ち立てた企業精神で、『他人の利益を図らずして自らの繁栄はない』という共存共栄の考え方です。『他人』は、社会、お客さま、取引先、社員などで、そこに対して優れた商品、技術、経営力をもって、よりよい企業価値を提供するということです。社員も対象なのは、社員こそが会社の財産だからです」

――中国は重要な事業拠点のひとつです

「1992年に上海YKKジッパー、95年に大連YKKジッパーとYKK深圳を設立しました。現在、蘇州、無錫、香港に拠点を持つ法人とともに事業展開しています。中国には3000社以上のファスナーメーカーがあるといわれています。中国進出当初からYKKのファスナーを購入してもらえるか心配でしたが、現地スタッフとともに切磋琢磨(せっさたくま)し、お客さまに評価をいただき、事業を安定して継続できています」

――マグネットファスナーが話題です

「従来のファスナーは閉じる際、左右の開具(ひらきぐ)を組み合わせる動作が必要です。マグネットファスナーは左右の開具を近づけるだけで、磁力で組み合わせられ、ファスナーを閉めることができます。スポーツ選手などはスピーディーな着用ができ、小さなお子さんや高齢の方、手が不自由な方などに便利に使っていただいています」

――ファスナーはさまざまな商品に使われています

「YKKの水密・気密ファスナーは、ダイバースーツ、化学防護服、航空機のエンジンカバーなどに使われています。宇宙服にも胸から背中にかけて使われ、宇宙飛行士は打ち上げ時と帰還時にオレンジ色の与圧服(地上の気圧に近い状態にする船内服)を着用しています。漁網はかつて、先端部がひもで結ばれていましたが、ファスナーを取り付けたことで、水揚げ作業が飛躍的に効率アップしました」

――新コーポレートロゴを発表しました

「ロゴに添えたタグライン『Little Parts.Big Difference.』には、『小さなパーツに過ぎないが、大きな価値をもたらす』という全世界のYKK社員に共通する思いが込められています。どの国、地域で事業展開するときも、その地域、社会と共生し、『YKKが来てくれてよかった』と思われるよう活動しています」

――「車座集会」を開いているそうですね

「私と、1回に7、8人が車座になり経営理念について語り合う場です。経営層や中間管理職、現場の社員と『善の巡環』などの考え方を対話しています。社員からは日ごろ感じている課題などを語ってもらっています」

――社員にひと言

「『失敗を恐れるな』と伝えています。失敗を新たなパワーにすることで人は大きく成長します。私も社員と共にチャレンジし続けていきたいと思っています」

【会社メモ】ファスナー、スナップ・ボタンなどのファスニング商品の製造・販売を70カ国・地域で展開する。本社・東京。富山県黒部市に生産拠点、黒部事業所を置く。創業者の吉田忠雄氏が1934年サンエス商会として創業。45年吉田工業に改名し、94年YKKに社名変更する。2024年3月期の連結売上高9102億円。連結従業員数4万5363人(24年3月時点)。

【白酒(パイチュウ)】入社して2年後、香港に駐在して以来、香港に約20年、深圳に約6年半、上海に約4年間滞在した。取引先などとの懇親会の席上では、アルコール度数約50度の「白酒」をたしなんだ。2014年に日本に帰任するまでの約30年間続き、「もう一生分いただきました。日本に戻ってからは、焼酎などを軽く飲む程度です」。

【ネイチャーアクアリウム】水槽の中に、水草や熱帯植物、流木や石を置き、さまざまな魚などを泳がせ自然を楽しむ「ネイチャーアクアリウム」。香港駐在時代に夢中になった。水換えや清掃が大変だが「水槽の中に自然を表現していく過程は楽しいものです」。日本では大地震が発生したときのことを考え、離任を機に手放した。

【家族】妻と娘2人の4人家族。愛犬もいる。娘はそれぞれ家庭を持ち、次女には娘が2人。娘や孫が集まると女性ばかりで話が弾む。会話になかなか参加できないが、「孫や愛犬に会えることを楽しみにしています」。

【単身赴任】1カ月のうち、東京本社、黒部事業所(富山県黒部市)、海外出張がそれぞれ3分の1ずつの比率になる。住まいは関西で、帰省できるのは年末年始やゴールデンウイークぐらい。東京本社勤務の際は妻が上京し、料理などを作る。「生活周りのことは妻に任せていますので、不便を感じたことはありません」

【ゴルフ】中学校では軟式野球、高校ではサッカーに熱中していた。現在は月1、2回のゴルフ。取引先とのゴルフもあるが、プライベートでもよく出かける。「ゴルフは大好きです。仕事のことも忘れ、毎回楽しくプレーしています」

【多年草】多年草のアジサイやハイビスカスを育てている。アジサイは水を好む植物で、こまめな水やりが必要となる。ハイビスカスは日光を好み、日当たりのいい場所に置くことが大切だが、30度以上になると日陰に移動させることがポイントだという。こまめに管理することで、「毎年見事な花を咲かせてくれ、心が癒やされます」。

【好きな言葉】山本五十六の«やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、ほめてやらねば人は動かじ。話し合い耳を傾け承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守って信頼せねば人は実らず»。

「リーダーが部下を育成するうえで、大変参考になる考え方です」

■大谷裕明(おおたに・ひろあき) 1959年11月生まれ、64歳。兵庫県出身。82年甲南大学経済学部卒、YKK入社。84年YKK香港、2003年YKK中国投資を経て05年YKK深圳社長。11年上海YKKジッパー社長。14年4月YKK副社長兼ファスニング事業本部長。同年6月同社取締役副社長兼同事業本部長。17年同社代表取締役社長に就任する。

ペン/危機管理・広報コンサルタント 山本ヒロ子 カメラ/関勝行 レイアウト/河本亮

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