トヨタ自動車が中国・上海で、高級車ブランド「レクサス」の電気自動車(EV)を生産する新工場を建設する方向で調整していることが分かった。トヨタとして初の中国での単独出資で、2027年ごろの稼働を目指す。ドナルド・トランプ次期米政権を見据え、米中対立の激化も予想される。EVが主力の中国市場で巻き返したいトヨタの狙いに加え、経済不振の中国も外資を呼び込みたい思惑がうかがえる。
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トヨタの中国生産は、これまで中国企業との合弁会社が担ってきた。中国第一汽車集団との「一汽トヨタ」と、広州汽車集団との「広汽トヨタ」の2社で、「カローラ」や「RAV4」、EVの「bZ4X」などを手掛ける。
中国は18年に外資系自動車メーカーの乗用車分野に関する出資規制の撤廃方針を表明、EVなど新エネルギー車も制限を廃止した。すでに米テスラが単独で進出している。
トヨタの中国における24年上半期販売実績は、前年同期比11%減の78万5000台だった。世界的には伸び悩みが目立つEVだが、中国では国策としてEV普及を進め、中国最大手の比亜迪(BYD)など現地ブランドが比較的低価格のEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の販売を伸ばしている。トヨタは切り札のレクサスブランドのEVで差別化を図る狙いだ。
中国側としても海外からの投資は歓迎だ。経済成長の鈍化や、政治的なリスクを背景に、昨年の外資企業による中国への直接投資は330億ドル(約5兆円)と前年比で約82%減で、30年ぶりの低水準にとどまった。
経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「中国の経済成長が鈍化し、国民の不満が高まるなかでのトヨタの単独出資は、経済好転の打開策に付き合わされている形にみえる。最終的に技術が奪われるなど過去の家電と同じ轍を踏まないか懸念もある」とみる。
トヨタの中国でのEV新工場のニュースは、岩屋毅外相が訪中し、王毅共産党政治局員兼外相と会談する方向で調整に入ったというタイミングで報じられた。
平井氏は「トランプ政権の『対中強硬』と『脱炭素優遇政策の転換』とは反対の動きで、日本が中国にすり寄るメッセージと受け取られかねない」と指摘した。