「戦争はまるでX線だ。人間の内部を見せる」
先月配信が始まったばかりの昨年公開の映画「マリウポリの20日間」。見ていてつらいものがあります。子供の頃から戦争ものが苦手だった身としては胸が苦しくなるような98分です。でも、だからこそこの映画を見ていただきたいです。
この映画は、ロシアの侵略攻撃にさらされたマリウポリからの決死の脱出を記録したミスティスラフ・チェルノフ監督のドキュメンタリーです。
マリウポリの痛ましい惨劇の記録であると同時に、紛争地帯からの報道がどのように行われていたのか、そして報道が世界にどのような影響を及ぼしていくのかを映し出していきます。
攻撃されないと思っていた民間人が次々と攻撃され、パニック寸前の市民はなんとか正気を保っているように見えます。
しかし、もうここから逃げるのだから街の店に置いてあるものは持っていっていいだろうと、勝手に略奪していく様は実に痛いシーンです。何せ白昼堂々のシーンなんですから。通りかかる軍の人が「なぜ協力し合わない?」「自分の暮らす街で略奪をしてどうする?」と憤ります。全くの一般市民がこういう行動に出てしまうんですから、本当に戦争というのは人間の内部を描き出すX線と言えます。
この「マリウポリの20日間」は、ウクライナ映画史上初のアカデミー賞受賞作です。授賞式でチェルノフ監督は、「この映画が作られなければよかった…」とマリウポリの悲劇を世界に力強く訴えたそうです。
苦しむ人々にカメラを向けることへの逡巡も感じるし、「この現状を世界に伝えてくれ」と周りからの期待も使命感になり、でもロシア政府は「フェイク動画だ」と無視を決め込むわけです。さまざまな感情を抱えながらも撮影している様が痛いほどわかります。
映像を市外へ持ち出すために、今まで取材してきた病院の人々より先に街を離れることの苦しさ。そんな状況を経て、このドキュメンタリーを見られるんです。 (立川志らべ)
※配信は予告なく終了している場合もあります