聞き飽きたと言いたいところではあるが、それで収まるわけもない強盗事件。ニュースで聞くかぎり他人事と思いきや、そのリスクは誰にとっても今や現実のことで、油断をしたまま生きていると、とんでない目に遭うような時代になってしまった。
噓かまことか、ある記事によると「カネに困っているグループが、無計画に犯行を繰り返している」というではないか。なるほどあちらさんも手負いの獣ということだ。また捨て駒に使われている連中も、若者だけではなく年齢も多様化しているようで、格差社会の世相を強く映している。
そんなご時世に、知人が高級注文住宅を考えているという。もともと住んでいた家を売り払い、そこに親の遺産を足して、郊外に豪邸を建てる予定らしい。
この春からの計画で、設計士との相談もほとんど決まりそうになっていたというのに、この大騒ぎである。
奥さまの強い要望もあり、彼はその豪邸の設計を大幅に変更することになった。
私も初めて知ったのだが、セキュリティーを意識した昨今の豪邸は、昭和の金持ちが好むような、大きな庭を見渡す大きな窓などは作らない設計だという。
また、あえて塀も作らずに、外から死角になるような庭や、家の外側に大きな窓など作らずに、要塞のような強い壁で四方を取り囲むそうだ。
侵入経路になりかねないバルコニーなども作らない。唯一、高い位置に人間が入れないような細い窓を作り、光を取り入れる。出入り口は正面の堅牢(けんろう)な玄関だけ。裏の勝手口などはそれこそご法度だという。
それでは家の中が薄暗いだろうと思いきや、大きな中庭を作り、それを囲むように大きな窓(これもしっかり防犯ガラス)を作り、たくさんの光を取り込むのだ。
なるほど侵入するのには、堅牢な玄関をこじ開けるか、忍者のようにロープで屋根を上って中庭に侵入するしかない。
米海軍のシールズのような特殊部隊がヘリコプターから降りてきたらひとたまりもないが、そんなことをされるのはイスラム過激派のトップだけだろう。
コソ泥や闇バイトで集められた素人強盗あたりは敵ではない構造だ。もちろんこの造りは、普通の設計よりもはるかに高額になるのは言うまでもない。
また一番驚いたのは、寝室を「パニックルーム」にすることだ。寝室の扉を大きなカギのついた金属製の強いものにすることで、避難スペースとするのだ。
もし侵入されても寝室に入ってくるのは簡単ではない。強盗が廊下で悔し紛れに暴れている間に、落ち着いて警察や警備会社に連絡を入れることができる。
そこまでする必要がある世の中になったのかと、ため息が…。昭和の金持ちのように、庭に大きな池を作ってニシキゴイを泳がせ、パンパンと平手を打ってエサをあげるような光景はもうないのだなと理解した。
この手の物騒な話は来年も収まらず、さらに巧妙化されていくだろう。2050年には日本の全人口の約40%が65歳以上になる計算だが、その頃はさらに強盗だらけになる。なので、金のある年寄りはみんな要塞に身を隠すか、または貧乏な振りをするかだ。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。
11月22~24日に東京・銀座の博品館劇場で上映される「新版・天守物語」に出演する。