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実録・人間劇場 アジア回遊編~モンゴル(4)バスで30時間、ウルギーを目指す モンゴル人青年が着ていた謎の「市立浦和南送球部」ジャージ

zakzak by夕刊フジ 2024年10月25日 15時30分

モンゴルは大きく5つのエリアに分かれる。首都ウランバートルがある中央部、ロシアと隣接する北部、中国と隣り合う東部、カザフスタンがすぐ近くの西部、そして南部にはゴビ砂漠が広がっている。

今回のモンゴル旅は2週間の旅程だ。ウランバートルは想像よりはるかに発展していたが、どうせモンゴルに来たのなら草原の広がる大自然に身を置いてみたい。

地図を眺めていると、西部に位置する「ウルギー」という町が目に入った。モンゴルでありながら、この町に住む人のほとんどが「カザフ人」だという。そして、目の前には地理の教科書でしか見たことがない「アルタイ山脈」がそびえ立つ。

このウルギーまでバスで行ってみるというのはどうだろうか。飛行機なら約1時間で着いてしまうようだが、バスだと30時間以上かかる。ウランバートルとウルギーの間はひたすらに草原だけが続く。その中を2日かけてバスで突っ切るのだ。特に急ぐ必要もない。私はウランバートル郊外にある「新ドラゴンバスターミナル」でチケットを購入し、翌朝、ウルギー行きの長距離バスに乗っていた。

出発してから約6時間。一度目の休憩で大草原の中にポツンとあるサービスエリアのような場所にバスが止まった。そこで、4人乗りの車から降りてきた青年の背中を見て、私は「あっ!」と声をあげてしまった。なぜかその青年は「市立浦和南送球部」と書かれたジャージを着ていたのである。

すぐに声をかけて「このジャージはどうしたんだ?」と聞いたが、一体何が書いてあるのか理解していないのだろう。いまいちピンときていない。どこで買ったのか問うてもヘラヘラしているだけなのだ。

推測するに、このジャージのもともとの持ち主は、浦和南高校ハンドボール部の部員でまず間違いないだろう。そして、このモンゴル人青年は、おそらくなじみのない「漢字」を「イカしてる」と感じ、意味もわからずに着ている。庶民の多くは都市部にある市場で服を買うようだが、そこで手に入れたものとは考えがたい。市場を歩いてみるとわかるが、どの店に行っても同じラインアップ。つまり、大量製造された商品を売っているにすぎないので、このジャージが出回る可能性は低いのである。

考えられるのは日本からの寄付だ。調べてみると、1年前に浦和にある某団体がモンゴルの児童養護施設に衣類を送っていた。しかし、高校生が着ていたジャージは子供には合わず、回り回ってこの青年の元に辿り着いたのではないか。

しかし、あれこれ考えてみても、ジャージを着ている本人がよくわかっていない以上、追及のしようがないのであった。

■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。

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