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八幡和郎 民主主義の危機・国家指導者 自民総裁選、高市氏はなぜ敗れたのか 強い保守色に〝穏健派〟の不安 石破氏「新首相」として外交は大いに不安

zakzak by夕刊フジ 2024年9月29日 10時0分

自民党総裁選は27日、保守派が期待した高市早苗経済安保相でなく、石破茂元幹事長が選出された。第1回投票では、党員・党友票も国会議員票も高市氏が勝っていたが、決選投票で、岸田文雄首相や、菅義偉前首相、茂木敏充幹事長らが「石破氏支持」に回ったといわれている。

彼らは安倍晋三政権を中枢で支えた面々だ。つまり、穏健保守派の立場から、高市氏については「安倍路線継承者」としては不安を払拭できなかったのだろう。

高市氏の先週までの戦いは見事だった。応援団の保守色が強すぎて、与党内の人々まで攻撃するのは気になったが、党員・党友票の躍進は、ドナルド・トランプ旋風に似た風を起こした。

東京都知事選で「石丸旋風」を演出して、「選挙の神様」と言われた藤川晋之介氏の選対入りも、ネットでの風を起こした。

ただ、党内には「高市氏の保守色の強い言動が国際的に摩擦を引き起こさないか」「朝日新聞などリベラル系メディアに総攻撃を受けないか」「推薦人に裏金議員が多いことが攻撃されないか」「市場の信頼を損ねるような発言を封印できるか」など、不安は残ったままだった。

今週初めに郵便投票が事実上締め切られてから、前述した岸田、菅、茂木各氏や、小林鷹之前経済安保相を支持した勢力、穏健保守寄りの議員に安心感を与えるために、君子豹変(ひょうへん)して発言などを配慮すべきだった。

安倍元首相は保守的なイデオロギーを持ちながらも、自公連立に誰よりも高い評価を与えた。対中外交も重視し、女性の権利拡大で実績を上げ、バラク・オバマ米政権とも上手に付き合った。経済政策も市場の信頼を失うような極端なことはしなかった。

安倍氏は首相退任後、派閥の長として保守色が強化された言動をしていた。だが、もし「3度目の登板」をしたら、第2次政権時と大きく違うことはしなかったと彼らは考えているのだ。

これに対し、石破氏の決選投票前の演説は、これまでの愚痴っぽさがなかった。また、総裁選の論戦で、多くの自民党議員や党員・党友が心配している皇位継承問題について、「(秋篠宮ご夫妻の長男の)悠仁さまが継承されるのは当然」と言葉を濁さなかったのは賢明だった。

石破氏の「新首相としての課題」は、内政では、立憲民主党の野田佳彦代表が、実はほとんど内容のない論戦しかできないから、心配していない。次期衆院選も来年夏の参院選も乗り切れるだろう。

しかし、外交は大いに不安を感じる。

気が短いトランプ前大統領が復帰したら、話が長すぎる石破氏の電話は切られかねない。G7(先進7カ国)のようなマルチ(多国間外交)の経験も乏しい。

石破氏は外交の舞台での振る舞い、演説の明快さなどを大急ぎで改善すべきだ。一日に何時間か英語の特別レッスンをして、外国人との社交術についてもいい先生を付け、外国人とたくさん会うことが重要だ。 =おわり

■八幡和郎(やわた・かずお) 1951年、滋賀県生まれ。東大法学部卒業後、通産省入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任し、退官。作家、評論家として新聞やテレビで活躍。国士舘大学大学院客員教授。著書・共著・監修に『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか―地球儀を俯瞰した世界最高の政治家』(ワニブックス)、『日本の政治「解体新書」世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書439)、『民族と国家の5000年史』(扶桑社)、『系図でたどる日本の皇族』(宝島社)など多数。

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