ドナルド・トランプ氏(78)は20日(日本時間21日未明)、米ワシントンの連邦議会議事堂で宣誓し、第47代大統領に就任した。就任演説を終えたトランプ氏はホワイトハウスに入り、重要施策を迅速に実行できる「大統領令」に矢継ぎ早に署名する。その数は100本にもおよび、多くはジョー・バイデン政権時代に出された大統領令の撤回が目的とされる。就任演説では、不法移民の流入阻止に向けた国境をめぐる「国家非常事態宣言」の表明や、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの再離脱、電気自動車(EV)普及策の撤回などを表明した。識者は、トランプ政権が今後、中国との「対決姿勢」を強めると分析する。石破茂政権はリベラル色が強く、対中融和姿勢が目立つが大丈夫なのか。
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「今日から全てが変わる。米国の『完全な復活』と『常識の革命』が始まる」「政権の一日一日、『米国を第一』に考える。最優先事項は『誇り高く、繁栄し、自由な国』をつくることだ」「米国は富を増やし、領土を拡大して成長する国家だと考える」「米国の黄金時代が始まる」
トランプ氏は21日の就任演説で、こう宣言した。「トランプ2・0(第2次トランプ政権)」は発足初日から、前任のバイデン大統領の政策を覆す大転換に打って出た。
具体的政策では、昨年の大統領選でも特に強調してきた不法移民対策として国境地帯に「国家非常事態」を宣言し、南部国境に米軍を派遣することを表明した。
トランプ氏は演説で、「不法移民の入国を直ちに止め、多くの外国人犯罪者を送り返す。軍を使って侵略を撃退する」と主張した。国境関連の大統領令10本に署名、軍や国境警備隊を派遣して「壁」の建設を推進する。近く不法移民の強制送還に乗り出し、移民に関する犯罪組織を国際テロ組織に指定する考えだ。
経済にも力点を置いた。「米国民を豊かにするため関税を課す」と宣言し、記録的なインフレも終わらせることを約束した。エネルギー分野で「国家非常事態宣言」を行って化石燃料の増産を図るほか、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再離脱し、電気自動車(EV)普及策も見直す。
バイデン政権からの政策大変更で、トランプ氏が活用するのが「大統領令」だ。
立法手続きを経ずに連邦政府機関や軍に出す命令で、エイブラハム・リンカーン大統領の「奴隷解放宣言」や、フランクリン・ルーズベルト大統領による「日系人強制収容」も大統領令に基づいたものだ。法律と同等の効力を持ち、迅速に政策を進められる一方、議会が発効を禁じる法律を制定したり、最高裁が違憲だと判断したりすれば、効力を失う側面も持つ。
トランプ氏が大統領令を連発する背景は何か。
上智大学の前嶋和弘教授(現代米国政治)は「トランプ氏は環境、気候変動対策や関税、移民問題など、法律を変えずに解釈しながら、大統領レベルで変えられることに取り組もうとしている。大統領令は議会や裁判所が無効にすることもできる〝張り子の虎〟だが、あえてどんどん出すことで分断した米国を率いていく姿勢を見せるのだろう」とみる。
渡瀬氏「中国の息の根止めるつもり」
第2次トランプ政権で、日本に大きく影響するのは「関税政策」、そして「中国との関係」だ。
就任演説では「米国民を豊かにするため、外国(からの輸入品)に関税を課す」と明言し、関税徴収を担う「外国歳入庁」の創設を表明した。ただ、高関税の標的とする国や税率などの具体論には踏み込まなかった。
しかし、トランプ氏は長引く貿易赤字を問題視しており、実態を調べて各国に是正を迫る狙いがあるとみられている。中国とカナダ、メキシコは特に名指しし、徹底調査を求めるという。
トランプ氏は今後、習近平国家主席の下で覇権拡大を狙う中国と、どう対峙(たいじ)していくのか。
米国事情に詳しい早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「中国のEVなどへの関税や、貿易赤字是正のためのサプライチェーン(供給網)の見直しを中心に行うだろう。エンティティーリスト(取引制限リスト)を拡大するなど、中国製品の排除を進めるとみられる。不動産バブル崩壊で中国経済が低迷するなか、トランプ氏は本気で『中国の息の根を止める』つもりではないか」と話す。
気になるのは日本の石破政権の姿勢だ。
石破首相は21日未明、自身のX(旧ツイッター)で、トランプ政権誕生に祝意を示し、「日米協力関係を強化し、自由で開かれたインド太平洋という共通の目標の実現を共に追求していくために、トランプ大統領と連携していきたいと思います」と投稿した。
だが、石破首相とトランプ氏の対面会談はいまだに実現していない。他方、中国に対しては石破首相が昨年11月、南米ペルーで習氏と首脳会談を行い、同年12月には訪中した岩屋毅外相が李強首相や王毅外相と面会し、「戦略的互恵関係」の推進を確認した。
「トランプ2・0」の対中政策は、今後の日本にどのような影響を与えそうか。
渡瀬氏は「米国が中国製品を排除することで、日本のハイブリッド車などが勝機を得る可能性はある。一方で、再エネ関連やITサービスなど中国製品の使用について米政権と歩調を合わせることを強いられるかもしれない。共和党政権は東南アジアやオセアニアとのパイプが細いため、日本が仲介の役割を果たすことを求められる。中国は日本にすり寄ってきており、日本は難しい選択を迫られるだろう」と指摘した。