石破茂首相(自民党総裁)の〝強権発動〟が加速している。派閥裏金事件を受けた衆院選(15日公示、27日投開票予定)対応について、4月に党処分を受けた旧安倍派議員ら6人を「非公認」とする方針だったが、さらに追加する検討を本格化させたのだ。「非公認は10人以上になるかもしれない」(党幹部)との見方もある。内閣支持率の伸び悩みに狼狽(ろうばい)して、裏金事件に厳しく対処して局面転換を図るつもりなのか。こうしたなか、石破首相が代表を務めた政治団体「水月会」(旧石破派)についても、政治資金収支報告書への不記載が発覚した。石破首相は「事務的ミス」を強調したが、自民党内の不信感や怒りは限界を超えつつある。
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「どうすれば、わが党が(衆院選で)勝てるかを判断した。政治資金問題に対する批判は私どもが思っているよりはるかに強い」
石破首相は7日夜、自民党本部で開いた全国幹事長会議で、衆院選での裏金議員公認対応について、こう語った。
内閣支持率の伸び悩みを、「政治資金問題への批判」が原因と主張したいようだが、石破首相の就任後の「豹変(ひょうへん)」や「変節」も、相当影響しているはずだ。
逆風に驚いたのか、石破首相は6日、4月に党処分の「選挙での非公認」より重い処分を受けた議員を「非公認」としたうえ、それより軽い処分でも、処分が継続している議員(国会の政治倫理審査会で説明責任を果たした議員は除く)や、地元の理解が進んでいない議員も「非公認」とする方針を表明した。
さらに、収支報告書への不記載があったその他の議員も含めて、裏金問題の対象議員は比例代表との重複立候補を認めないとした。
「一事不再理の原則」に反する「二重処分」だが、左派勢力は高く評価して、さらなる追加処分を求めた。
自民党は7日、4月の党処分で「党役職停止」や「戒告」だった議員を「非公認」として追加するかどうかの検討を本格化させた。石破首相は同日の衆院代表質問への答弁で、「選挙区事情や当選可能性を踏まえ適切に判断する」と述べた。
対象になるのは、長年の宿敵・安倍晋三元首相が率いた旧安倍派議員や、総裁選の決選投票で激突した高市早苗前経済安保相を支持する議員が多い。このため、石破執行部としては、「非公認を増やすのは悪手ではない」と考えたのだろうか。
こうしたなか、石破首相に「政治とカネ」の爆弾が直撃した。
神戸学院大学の上脇博之教授が3日、石破首相が代表を務めた政治団体「水月会」による政治資金パーティーについて、政治資金規正法違反容疑で東京地検に告発状を出したのだ。
告発状によると、水月会は、2019~21年に開いた政治資金パーティーで、収支報告書の収入に計80万円分少なく記載したとしている。
石破首相は7日、「事務的なミスがあったことは好ましくない。厳粛に受け止める」と官邸で記者団の質問に答えた。不記載の経緯については、「複数の議員にパーティー券を購入してもらった。合計が収支報告書に記載すべき20万円を超えていたが、事務局側で確認漏れがあった」と釈明した。
党内からは憤怒と失望が広がっている。
ベテラン議員は「恥知らずだ。すでに処分が決定した議員を、自己都合で粛清しながら、いざ自分に同様の問題が発覚したら『事務的ミス』でお茶を濁す。最後の最後までトップとして引責しなかった岸田文雄前首相とまったく同じで、国民の不信は決定的だ」と憤る。
有馬晴海氏「単独過半数が厳しい情勢。自民党内の軋轢も相当なもの」
野党幹部は「自民党に『古い体質』や『腐敗の構造』が染みついているのが分かる。総裁選では、若手も登場し、過去最多の候補者が立つことで国民に『改革』をアピールしていたが、石破首相が政策など持論を〝後退〟させ、醜聞が噴出するありさまは、岸田政権が退潮した構図と同一だ。総選挙と来年の参院選で政権交代の目も出てきた」と自信をにじませる。
石破首相は9日、衆院を解散する方針だが、国民の支持を取り戻せるのか。
政治評論家の有馬晴海氏は「石破首相は『熟議』が売りだったが、さえない世論調査に焦り、早期解散論に押された時点で齟齬(そご)が出た。衆院選は、裏金事件が〝争点〟となる様相で、もう後戻りできない。仮に裏金事件の関与者をことごとく処分すれば、自民党は衆院選で単独過半数が相当、厳しい情勢だろう。時間不足で補充も間に合わない。公明党との連立で過半数は維持するかもしれないが、厳しい政局は不可避だ。自民党内の軋轢(あつれき)も相当なもので、党を二分した対立やそれ以上の波乱も起こり得る」と分析した。
【自民党の処分(重い方から)】
①除名
②離党勧告
③党員資格停止
④選挙での非公認
⑤国会・政府の役職辞任勧告
⑥党の役職停止
⑦戒告
⑧党則順守勧告