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日本の少子化の原因は、未婚率の上昇、晩婚化など社会的な要因がさまざまある一方、不妊症に関しては男女共に原因があることがわかってきた。近年、日本に限らず世界的に男性の精子数が減少。そして、少子化の一因に若者の性欲低下傾向も挙げられている。実際はどうなのか。順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座助教で、同大学医学部附属順天堂医院の「男性妊活外来」を担当する平松一平医師に聞いた。
「一般的に挙児希望の年代は、仕事が多忙で責任も重くなる責任世代の方々が多いです。帰宅して妊活に向き合う気力や体力が低下している可能性があります。以前と比較し、男性不妊症の原因で、性機能障害の割合が増えているとの指摘があります」
診療の現場では?
「私の外来で特に多い相談は『妊活になるとうまくできない』。実は、射精はとてもデリケート。リラックスしていれば勃起して射精はさほど難しくはありません。排卵日とその前後2日間で3、4回に射精に成功すると妊娠率は上がるとされていますが、夜疲れて帰ってきたところにプレッシャーかかると、急にうまく勃起できない。あるいは性交中にいわゆる中折れが起きます」
その場合、外来ではどういう処方をするのか。
「なかなか難しいですね。一度失敗すると『次こそは』との気持ちでうまくいかなくなってしまうこともあります。その場合は、例えばED治療薬を飲んでいただき、勃起力を医学的に補助することで精神的負荷が軽減し、乗り越えられる方もいます」
一度うまくいくと「自分は大丈夫」とリズムを取り戻し、ED治療薬が不要になるケースも多いという。
射精障害で悩んでいる場合には、腟内射精での自然妊娠にこだわり過ぎないことも大事だと、平松医師は指摘する。
「不妊治療に関して言えば最終目標は挙児になります。原因が不明確な造精機能障害や性機能障害の治療には時間を要するので、そこに過度に時間をかけるのはもったいない。個人差はありますが卵子も精子も確実に加齢の影響を受けます。『もっと早く病院に行っておけばよかった…』と後悔しないために、検査だけでも早めに受けていただきたいと思います」
妊活に関して言えば、性交と生殖は切り離して考えるほうがベターなのだろうか。
「いちがいには言えませんが、例えば、人工授精では、クリニックや自宅でマスターベーションにより採取した精液から運動率が高い精子を集めて子宮内に注入しますので、自然妊娠に近い医療です」
ほかには、どんな選択肢があるのか。
「『体外受精』『顕微授精』などをご提示して視野を広げていただくのもわれわれの一つの役目だと考えています。当院では婦人科、泌尿器科ともに不妊症診療を行っており、カップルで安心して受診していただける環境を整えております」
こんな統計がある。2017年に誕生した子どもの16人に1人が体外受精で、19年には11人に1人に増加している。
妊活に医療の力を借りるのは決して珍しいことではない。生殖医療は驚くべき進化を遂げている。限りあるチャンスを悩んで失うより、医療機関に足を運んで専門家に相談するのが最善だ。妊活をポジティブに進めるきっかけがつかめるに違いない。 (取材・熊本美加) =つづく
■平松一平(ひらまつ・いっぺい) 順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座助教。2013年順天堂大学卒業。日本生殖医学会が定める認定研修施設の一つである獨協医科大学埼玉医療センター・国際リプロダクションセンターでの研修を経て、現在、順天堂医院で男性妊活外来を担当する。生殖医療専門医、泌尿器科専門医・指導医、日本性機能学会専門医、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、日本排尿機能学会専門医、難病指定医。