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自民党新総裁への期待と直言 ピント外れな防衛政策で日米同盟不安定に…新総裁選出の石破茂氏、対中めぐり鳩山由紀夫氏の構想を想起 自民党は選択を誤った

zakzak by夕刊フジ 2024年10月1日 6時30分

「保守自民党」から「リベラル自民党」への党内政権交代なのか。

自民党総裁選で27日、石破茂元幹事長が新総裁に選出された。石破氏は「保守」を自称しながら、女系天皇容認や選択的夫婦別姓導入、同性婚法制化を主張する「リベラルの詰め合わせ」のような政治家だ。党所属国会議員の半数以上が決選投票で石破氏に投票した。「自民党はリベラルに傾いた」と言える。

予想される次期衆院選で、「穏健保守層を取りにいく」と標榜(ひょうぼう)する立憲民主党の野田佳彦新代表への対抗としての「顔」を選んだとされる。だが、安倍晋三元首相を支持していた「岩盤保守層」の離反は加速するだろう。LGBT理解増進法に続く、安倍氏亡き後の自民党の失敗だ。

総裁選に合わせるように、中国とロシアによる日本への軍事的挑発が相次いだ。中国・深圳では日本人学校に通う男児が殺害もされた。「反日感情」の影響が指摘されている。

12年前、2012年の総裁選の際も、中国が反日暴動を起こしたり、軍事的な威嚇をした。それに対応すべく選出されたのが「軍事に精通」し、中国に厳然とした姿勢を示した安倍氏だった。当時の自民党は野党だったが、政権復帰は確実視されていた。「弱い総裁」が選出されていれば、中国は攻勢を強めていたはずだ。

今回はどうか。石破氏は防衛相の経験者だ。兵器オタクで軍事に通じてはいよう。しかし、その主張はどこかピント外れだ。

総裁選の最中、「アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想」を提唱した。本家のNATOは、かつてはソ連、今はロシアを仮想敵国とした攻守同盟だ。アジア版NATOが仮想敵とするのはどこか。

石破氏は「中国を最初から排除するということを念頭に置いているわけではない」と述べている。鳩山由紀夫元首相が提唱した「東アジア共同体」構想を想起させるが、まさか米国が仮想敵国ではあるまい。

日英同盟(1902年締結)は、ワシントン海軍軍縮会議で米国の横やりが入り、米国とフランスを加えた四か国条約となって失効した(23年)。アジア版NATO構想も、日米同盟を多国間関係で相対化するものでしかない。米国はすでに警戒し、中国はほくそ笑んでいるはずだ。

石破氏は沖縄県那覇市での討論会で、「日米地位協定の見直し」にも言及した。沖縄県民に空手形を切った形だ。鳩山氏の「最低でも県外」発言を想起させる。これも日米同盟の不安定化につながる。自衛隊の元最高幹部からは自衛隊員に信頼されず、「向こう(敵)の大将」となる懸念も表明されている。

新政権の誕生で、日本の安全保障の危機は高まるだろう。自民党は選択を誤った。

八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員も歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。

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