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BOOK 〝特殊なマーケット〟描きたかった 世界経済に激震、新型コロナとウクライナの戦争が与えた影響 マネーゲームで悪を討つ!黒木亮さん新刊

zakzak by夕刊フジ 2024年6月15日 10時0分

新型コロナ禍は世界の経済を激震させた。ところが、乱高下する株価も「カラ売り屋」にとっては、ウデの見せどころ。揺れ動くマーケットの中で暴利をむさぼる企業をあぶり出し、マネーゲームで〝悪〟を討つ。黒木亮さんによる人気シリーズの新刊!

――人気の「カラ売り屋」シリーズ。どのあたりが読者の支持を得ているのでしょう

「(僕が書く)『カラ売り屋』は、企業の不正を正義の観点から暴いてゆくのだけど、その視点は『世間』とはちょっと違っている。いわば〝スネ者〟ですね。そんなスネ者たちが(研ぎ澄まされた財務分析と緻密な告発レポートによって)自分たちの意見の正しさを証明してゆく…そんな痛快さがウケているんじゃないでしょうか」

――「カラ売り屋」はマネーゲームによって最後には何十億円もの利益を得る。それでも〝正義の味方〟ですか

「『カラ売り屋』は日本にはほとんどいない独特の存在。(本書のカラ売り屋は)単におカネ儲けをするのではなく『使命』を持っている。真実を暴く『ジャーナリスト的側面』がある人たちとして描いたつもりです。その意味で(当シリーズは)経済推理小説みたいなところもあるのかな」

――すると、タイトルの(マネー)モンスターはカラ売り屋のことを指しているのではない

「違いますね。(本書の『カラ売り屋』は)モンスターと呼べるほど資金力は大きくない。むしろ『地に足をつけた分析者』のイメージで描いています」

――何十億、何百億円も儲ける『カラ売り屋』が「小さい」って

「世界のヘッジファンドなどを見れば、何兆円もの規模の資産を持ち、莫大な投資をしています。それに比べれば『カラ売り屋』の投資額は小さい。彼らを独特の存在だと言ったのは、損失が無限大になってしまうので、大きな規模になり得ないからですよ」

――シリーズの単行本としては4作目になる。新刊のコンセプトは

「他の作品にも『カラ売り屋』は登場させているので実際には7作目くらいになるかな。今作のコンセプトは『新型コロナ禍の時期にカラ売り屋はどう動いたか?』ですね。コロナウイルスが世界中に蔓延(まんえん)して最初は経済が減速するとの予測から株価がドーンと下がった。ところが、その後の〝巣籠り需要〟と日米に代表される〝バラまき金融政策〟によって今度は株価がドンドン上がった。そこにウクライナの戦争がからんで株価は乱高下します。新型コロナ禍とウクライナの戦争がどんな影響を与えたのか。〝特殊なマーケット〟を舞台にして描いてみたいと考えたのです」

――株価が乱高下するマーケットは「カラ売り屋」にとってもウデの見せどころなんですね

「株価が動くということは『カラ売り屋』に限らず、売り手、買い手…あらゆるプレーヤーにとってチャンス(同時にリスクも)ですから、いろんなプレイヤーが活発に動いた。そこに面白さを感じましたねぇ」

――今回、ターゲットにされる液晶バックライトメーカーや地方銀行などにはモデルがある

「〝ミスター液晶〟として登場する人物や水素トラックには明確なモデルがあります。特に〝ミスター…〟(のモデル)には何度も会って詳しく話を聞かせてもらいました。地銀の話も、いくつかのモデルや僕の銀行時代の話をミックスしたり、メールで関係者から取材したり…」

――実名で登場する企業もある。抗議を受けたりは…

「ありませんね。(えげつない取引をしているとして実名を挙げた)都銀についてはこれまでに何度も書いていますしねぇ(苦笑)。ただ、その都銀については、同時にすごく一生懸命に仕事をする会社として僕は尊敬していますから」

――〝ミスター液晶〟では日本のメーカーの技術力が国際競争力を失ってゆく姿も描かれる

「僕が関係者に取材したところでは(競争力を失った理由は)昔のやり方にこだわり、『世界の速さ』についていけなかったことが敗因。融通の利かなさが足を引っ張ったんですね。ただし、全体でみれば、日本の技術力はまだまだ大丈夫ですよ。たとえば『鉄』の技術力は今も日本が世界一だと思う。高級車に使う素材など、いろんな種類の鋼材をつくる力がありますから。他にも日本がトップの技術を挙げたらきりがないくらい」

――こうした経済小説の他に、企業もののノンフクションも書いている

「そうですね。小説とノンフクションそれぞれに合った素材がありますから、今後も『両輪』として書いていきたいと思っています」

元キャリア官僚、北川靖とアメリカの友人たちでつくるニューヨーク・ウォール街のカラ売り専業ファンド『パンゲア&カンパニー』が活躍するシリーズ。新型コロナ禍時代におけるターゲットは、液晶バックライトのメーカーに、水素トラックの開発者、怪しげな地方銀行…。資産の過大計上やウソで塗り固めた製品開発、契約書類の改竄(かいざん)などの〝悪だくみ〟を的確な財務分析と告発レポートで暴いてゆく。

黒木亮(くろき・りょう) 1957年、北海道出身。66歳。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。大手都銀、証券、総合商社などの海外拠点で主に活躍。こうした実務経験を生かして書いた『トップ・レフト』で2000年作家デビュー。主な作品に『巨大投資銀行』『鉄のあけぼの』『メイク・バンカブル!』。早大時代は箱根駅伝に2度出場。ランナーとしての経験は『冬の喝采 運命の箱根駅伝』に綴られている。英国在住。

取 材・南勇樹/レイアウト・河本亮 写真は黒木亮氏提供

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