クセ強ッ! 一言で言えば、そんな感じだ。
20日に公開された映画「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンvs悪魔軍団」(福田雄一監督)。俳優陣はどうやって役作りをしたのだろうか? 監督はどのように演技指導をしているのだろうか? 絶妙なやり取りは演技か、それともアドリブか? ここでこんなネタをぶち込んでくるかとツボる場面もチラホラ。見終わった後の収穫は、プラマイゼロのニルバーナだ(イミフな表現!)。
原作は中村光さんのギャグ漫画「聖☆おにいさん」で、累計発行部数は1700万部を超えているという。その初実写化。
世紀末を無事乗り切った神の子イエス(松山ケンイチ)と悟りを開いたブッダ(染谷将太)が下界に降臨し、こっそりとバカンスを楽しんでいるという設定。2人は、東京・立川の6畳一間のアパートで暮らしている。コンビニに買い物に行ったり、近くの商店街の福引きに夢中になったり、お笑いコンビ「パンチとロン毛」で素人コンテストに出たり、スローな時間を楽しんでいた。
そこに突如、出演依頼が舞い込む。臨終の間際の走馬灯に変わり、新たな映像をいまわの際の脳内に投影させる作品の主役に、イエスとブッダに白羽の矢が立った。
2人を口説く側は、梵天(賀来賢人)、ミカエル(岩田剛典)、帝釈天(勝地涼)。3人が3人とも、ぶっ飛び具合半端ない演じ方で、演技指導にやって来る弁財天(白石麻衣)の弾けっぷりは「まいやん、大丈夫?」と心配したくなるくらい、振り切れている。新鮮。
映像制作の過程を描く後半は、ニチアサ(日曜日の朝)の戦隊ものの世界がこれでもかと続く。目を引くのは、出演者の錚々(そうそう)たる顔ぶれだ。
順不同で仙人(佐藤二朗)、十一観音(仲野太賀)、ヨハネ(神木隆之介)、マーラ(窪田正孝)、ルシファー(藤原竜也)、他にもムロツヨシ、山田孝之、川口春奈、山本美月らが真面目になり切っている。これでおしまい? という短時間出演も贅沢すぎる。
宗教がバックボーンになっている作品だが、宗教的な教えは何ひとつ残らない。神と仏を中心に、天使や悪魔が入り乱れてやりたい放題のギャグ映画。笑いというご利益が得られる。 (演芸評論家・エンタメライター)
■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。