日銀の金融緩和や日本の財政問題をめぐり、「円安が経済衰退や財政破綻につながる」と指摘する論者はいつの時代にも存在する。こうした見方はどこまで妥当なのか。〝予言〟が現実になる日がくるのか。
ある外国人投資家は「日本の円安が心配でならない。日本は大丈夫という考えは間違いである」と主張する。
円安の理由として日銀の金融緩和を挙げている。自国の通貨を刷れば価値が下がるのは必然であり、経済に詳しくない人でもわかるとも指摘している。
これまで日本に投資をしてきた外国人投資家が円安を好まないのは理解できる。日本への投資をドル換算した場合、円安になると投資効率が下がり、ヘタをするとマイナスになるからだ。
円高時に海外から日本に投資していたとすると、残念な結果になっている可能性もある。
また、この投資家は、日本が投資を呼び込めないので、日本経済は衰退の一途だともいう。円高の時に日本に投資した人は円安になると負けとなり、新たな投資が増えることはあり得る。
結局、日銀の動きを予測できなかったことの腹いせに、「円安で日本が危ない」と言っているように、筆者には受け止められる。
筆者が本コラムで書いてきたことは、円安になると日本経済の成長率は高まるという歴史的事実だ。そもそも円安は、ミクロ経済的には得する人も損する人もいるが、マクロ経済的には日本経済に有利で、他国経済には不利だ。
これは米国のドナルド・トランプ次期大統領やノーベル経済学賞学者のポール・クルーグマン氏らからも指摘されている。
通貨安による「近隣窮乏化」の効果は国際機関や各国のマクロ経済モデルで定量的に確認されている。例えば日本で10%の円安となった場合、成長率が1%程度アップする。
近隣窮乏化が古今東西で成り立つのは、自国通貨安が輸出関連企業に恩恵を与えるからだ。世界市場で活躍するエクセレントカンパニーが中心となるが、そこに恩恵を与えるのは、得点能力の高い大リーグの大谷翔平選手の打順をトップにして得点機会を多くするのと同じだ。
近隣窮乏化は、事実であり筆者の感想ではない。いずれにしても、円安は経済衰退や財政破綻になるのではなく、むしろ経済成長のきっかけになる。
自国通貨安について他国から文句が来るのであれば対応が必要だが、文句がないなら放置し国益を追求した方がいい。
今は米国が国際経済にうといジョー・バイデン政権なので、文句がきておらず、日本としてはラッキーだ。トランプ政権になれば、おそらく文句がくるだろう。
円安について見込みを誤った人は、ミクロ経済では「投資の失敗」になる。だが、それは個人の問題であり、個人の失敗をマクロ経済の日本経済全体と結びつけるのは、あまりに大人げない話ではないだろうか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)