キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・杉山大志氏緊急寄稿
経済産業省は、中長期的なエネルギー政策の指針を示す「エネルギー基本計画」の原案を有識者会議に示した。2040年度の電源構成見通しでは、再生可能エネルギーの割合を「4~5割程度」と火力発電を抜いて最大にする見通しだという。原発が発電量全体に占める割合は「2割程度」とし、従来計画と同水準を維持した。石破茂政権は、国民生活を苦しめている「再エネ賦課金」は維持し続けるようだ。エネルギー政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉山大志氏は緊急寄稿で、今回の原案を「赤点」「官僚栄えて国民滅ぶ」などと酷評した。
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第7次エネルギー基本計画原案
第7次エネルギー基本計画の原案が17日、政府審議会で提示された。文案が出てきたのは初めてだが、私の採点では、「100点満点で5点。赤点」である。来週の次回会合で座長一任を取り付けるのが政府のもくろみのようだ。公の場で議論するつもりはほとんどないらしい。
内容を見ると40年度の発電構成として「再エネ4~5割程度、原子力2割程度、火力3~4割程度」となっている。再エネは現状で1割が水力発電で、残り1割が太陽光・風力発電なので、要は「太陽光・風力発電を現状の3倍から4倍にもする」ということだ。
これは大変なコスト増になる。
他にも、アンモニアで発電するとか、水素から合成メタンを作るとか、水素で製鉄するとか、どれもこれもバカ高いに決まっている技術のオンパレードだ。
政府はこれを「グリーントランスフォーメーション(GX)」法に基づいて、規制と補助金によって実現するとしているが、10年で150兆円もの費用がかかるという。年間15兆円だからGDP(国内総生産)の3%である。これで経済成長すると言うが、こんな筋ワルの投資で成長するはずがない。
これを推進するのは、「脱炭素」利権の権化となった経産省だ。
GX法の下、20兆円の国債を発行し、補助金をバラまく。その償還のために、エネルギー課徴金を国民に課し、企業にはCO2排出権を売って収入を得る。以上は特別会計で、新設の外郭団体が運営し、天下りが始まっている。
さすがに経済の崩壊が不安になったのか、「脱炭素に伴うコスト上昇は抑制」とするが、要は、「少々の光熱費上昇は我慢しろ」ということか。「国際的に遜色のない光熱費」と言うが、その国際的とはどこか。愚かなエネルギー政策で、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)までリストラが始まったドイツのことか。
心ある政治家はグリーン利権から国民を守るべきだ
こんな曖昧な文言でなく、はっきりと、「東日本大震災前の2010年の水準に光熱費を戻す」と目標を設定すべきだ。心ある政治家はぜひこの目標を書きこみ、グリーン利権から国民を守るべきだ。原発を再稼働し、再エネ導入をやめれば、光熱費は下がる。
まるで「トランプに当て付け」
以前よりは改善した部分も少しはある。
原発は「依存度の低減」から「最大限の活用」に代わった。また、実現不可能な細かな数字の積み上げが消えた。
だが、国全体のCO2として40年度の排出量を13年度比で73%減するとしている。この理由は、13年度から50年度に向かって直線を引いた、というものだ。これは実現不可能で、何の裏付けもない。これを目指すだけで経済は崩壊する。
石破政権は、この数値目標を、25年2月までにパリ気候協定に提出する構えだが、世界が見えているのだろうか。
米国共和党は、バイデン政権が進めた「脱炭素」は経済を損なうとして猛反対してきた。ドナルド・トランプ次期大統領は1月20日の就任初日にパリ協定を離脱することが確実だ。
石破首相は、自滅的で愚かなエネルギー政策を策定するのみならず、まるで「米国への当て付け」のようなタイミングで、出来もしない数値目標をパリ協定に公約するのか。これで、石破首相は、トランプ氏に相手にしてもらえるのだろうか。
■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社新書)など。