Infoseek 楽天

山下裕貴 有事警戒・台湾訪問 金門島の防衛(上)中国領から約2キロ、数千人の防衛指揮部を配備も…肩透かし食らう緊張感のなさ 本気で攻撃すれば短時間で軍門に

zakzak by夕刊フジ 2024年8月2日 11時0分

6月中旬、台湾の離島、金門島を1泊2日で訪れた。同島は、中国福建省アモイ市に近く、中台対立の最前線に位置している。2月14日に発生した同島周辺海域における中国漁船転覆事故や、3月18日に発生した台湾側釣り船の遭難事故(1人は現役の軍人ということで拘束中)で、両岸の緊張下に置かれていたことが訪問目的である。

早朝、首都・台北市の松山空港を飛び立ち、金門島へと向かった。幅約140キロ、緊張する台湾海峡を横断して約1時間で金門空港に到着した。

飛行機は金門島の西側から進入したが、その際に同島・最高峰の太武山(標高250メートル)を右手に見るように高度を落として進んだ。そこに見えたのは対空レーダーや情報収集用アンテナなどの軍事施設であり、山の麓には隊舎などの基地施設も確認できた。

金門島は大小12個の島々から構成され、面積は約150平方キロ(香川県・小豆島と同規模)。人口約14万人である。中国領から最短距離で約2キロの位置にあり、文字通りの最前線である。

同島は、国共内戦で敗れた国民党軍が中国大陸から撤退し始めた1949年10月、中国人民解放軍の上陸に伴う攻防戦「古寧頭(こねいとう)戦役」の戦場になった島である。上陸した人民解放軍約9000人に対し、国民党軍は約4万人の兵力で反撃し、人民解放軍は2日で降伏して戦闘は終了した。

また、1958年8月から79年1月まで、実に21年間にわたり中国大陸と金門島の間で砲撃戦が行われた。今もその戦跡が島内に残っている。

金門空港の警備は思ったより緊張感がなく、少し肩透かしを食らった。大金門島といわれる最大の島を一巡したが、兵士や警察官を見かけることもなく、また軍や警察車両とも遭遇しなかった。

島の東端から、長さ約5キロの金門大橋を通り小金門島といわれる島に渡った。ここでも軍関係の施設を確認できなかった。警察署の電光掲示板に「不審者を発見したら警察に通報せよ」と流れていたのが、唯一、最前線の島であることを再認識させられるものだった。

金門島には陸軍少将以下、数千人の防衛指揮部が配置されているという。同島は小さな島であり、土地の広さも地形の援護もなく防御に適する場所が少ない。

台湾国防部(国防省)は7月11日、中国の軍用機延べ66機と軍艦延べ7隻が同日午前6時までの24時間に台湾周辺で活動したと発表した。うち延べ56機が台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線を越えたり、台湾の防空識別圏に進入したという。記録が残るうち、中間線を越えた中国軍機数は最多だという。

75年前とは違い、驚異的な進歩を遂げた人民解放軍が本気で攻撃すれば、金門島は短時間で軍門に下るだろう。

■山下裕貴(やました・ひろたか) 1956年、宮崎県生まれ。79年、陸上自衛隊入隊。自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第三師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任。特殊作戦群の創設にも関わる。2015年、陸将で退官。現在、千葉科学大学客員教授。新聞やテレビ、インターネット番組などで安全保障について解説している。著書に『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』(写真、講談社+α新書)、『オペレーション雷撃』(文藝春秋)。

この記事の関連ニュース