米国はこれまで以上に対中抑止、中国のスパイ対策に力を入れるつもりだ。
来年度の国防予算の大枠を決定する重要な法案「2025会計年度の国防権限法」が、昨年12月23日に成立した。米国下院軍事委員会の公式サイトに掲載されているこの法律の要約版を見ると、軍事的脅威として最もページを割いているのは「中国の抑止」だ。次いで、「イスラエルの防衛」で、最後に「その他の敵対勢力」としてイラン、アフガニスタンとタリバン、外国のテロ組織、北朝鮮、ロシアが明記されている。
要は、中国を抑止することを最優先課題としているわけだ。どうやって中国を抑止するのか、主なものは以下の6つだ。
①抑止力を高める(インド太平洋向けの軍拡予算を大幅に増額など)
②中国のスパイ活動を防ぐ
③インド太平洋におけるミッションの成功の確保(兵站能力の拡大など)
④台湾防衛の強化(台湾が自衛能力を維持できるよう台湾安全保障協力イニシアチブを新設など)
⑤インド太平洋地域の同盟国とパートナーを支援(日米韓3国間防衛協力の推進など)
⑥中国の悪意ある影響力工作に対抗(同盟国に対する軍事情報作戦支援の強化など)
国防予算でありながら軍事だけでなく、スパイ防止や影響力工作といったインテリジェンス、同盟国への軍事支援を含めた総合的な安全保障政策を打ち出している点にまず注目してほしい。
最大の注目点は、②の「中国のスパイ活動を防ぐ」だ。以下のような項目がずらりと並んでいる。
・中国スパイ対策に必要な権限を陸軍防諜司令部(ACIC)に提供する。
・国防総省が中国の民間軍事企業と契約することを禁止する。
・国防総省が中国やその他の敵対国が管理する造船所と契約することを禁止する。
・機密性の高い核施設への中国人の立ち入りを禁止する。
・大学や研究者が中国の団体と協力する場合、国防総省の資金を受け取ることを禁止する。
・国防総省は、中国人を代表とするロビイストを雇用する企業との契約を禁止する。
・国防総省が、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」に半導体製品やサービスを提供している企業から半導体製品やサービスを購入することを禁止する。
・国防総省に対し、中国人やその他の外国人による米軍施設への侵入や侵入未遂について議会に報告するよう求める。
中国によるスパイ工作を徹底的に取り締まれ、というわけだ。当然のことながら日本も共同歩調を求められることになる。幸いなことに、昨年5月、高市早苗経済安保相(当時)主導でセキュリティ・クリアランス法(通称=重要経済安保情報保護活用法)などが成立しており、法的枠組みはある程度整備済みだ。
ただし、スパイ取り締まりを断行すれば中国は相応の報復をしてくるため、民間企業や国民にも累が及ぼう。報復に屈しない覚悟が石破政権、民間企業、そしてわれわれ国民に求められることになる。 (麗澤大学客員教授・江崎道朗)