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列島エイリアンズ 防災情報格差編(2)謎の緊急停車「津波か?」新幹線内でおびえる英国人 パニックを起こせば避難行動に支障も 情報伝達の再考を

zakzak by夕刊フジ 2024年9月4日 15時30分

災害大国と呼ばれる日本。地震に次ぎ台風も相次ぎ発生。先週末には10号が九州、四国などに上陸、列島を暴風雨で荒らしながら移動し、最大級の警戒が呼びかけられ続けた。

日本人や住み慣れた外国人には、情報は伝わったと思われるが、日本語に不自由な外国人にとっては、災害時の情報伝達が十分とは言えない状況だ。

2019年にYOLO JAPANが在留外国人を対象に行った調査によると、全体の65%が災害時の対応について「不安を感じている」と回答。34%が「災害時に母国語での情報発信」を求めている。さらに日本で災害に遭った経験のある回答者のうち、避難所やライフラインの状況など、詳細な情報まで理解できたと答えた人は20%を下回っている。

筆者も、イギリスから来日中だった知人から、こんな体験を聞いたばかりだ。

8月末、彼が乗っていた上りの東海道新幹線が、静岡県内で緊急停車した。日本語で繰り返し車内放送がされていたが、彼には理解できなかった。車両前方の電光掲示板には「この電車は一時停車いたします」という内容の定型メッセージが繰り返し流されていたが、原因については触れられていなかったという。

当時は南海トラフ地震臨時情報が解除されたばかり。スマートフォンの地図アプリで位置情報を確認するとそこは静岡県内の沿海部で「もしや津波か?」と一瞬、不安がよぎった。ただ、運良く隣の席の乗客が英語に堪能で、停車の原因は停電だと教えられた。彼によると、近くの座席にいた東南アジア系の観光客風のグループも、謎の緊急停車にざわついていたが、彼が状況を伝えて落ち着きを取り戻したという。

これが仮に速やかな避難が必要な状況だった場合、乗客の外国人は日本人と同様に身を守ることができたのだろうか。

こういうことを言うと、「自分の命は自分で守るべきだ」「日本に来るなら日本語を理解できるようにした方がいい」と反論する人がいる。確かにそれも一理ある。しかし、緊急時にはそんなことを言っていられない。上記のような状況で、情報格差によって一部の乗客にパニックが起きれば、全体の避難行動に支障が出ることになる。

つまり、災害や事故などの非常時には、日本人も外国人も運命共同体だ。災害時の外国人への情報伝達について、日本社会は自分のこととして再考する必要がある。

=この項おわり

外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人(エイリアンズ)なのだ。

■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ 新型コロナ詐欺」(扶桑社)など。

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