★絶品必食編
恵比寿での飲食店選びは難度が高い。洒落た街ながら、意外と人を連れていける選択肢は多くない。同様に焼き肉店選びも難しい。味のほか「煙」「雰囲気」など基準が多岐にわたる。
そうした難条件が重なるからか、伝統的に恵比寿には焼き肉の良店が多い。そしてこの9月、そこに割って入るように「TRATT.USHIGORO」(東京都渋谷区)がオープンした。
もちろん本稿で紹介するのだから(僭越ながら)味はいい。焼き肉のメニューは〝極肉〟〝霜降り〟〝赤身〟〝ホルモン〟という4カテゴリーあるが、グッと絞り込んだ凝縮感あるメニュー構成となっている。
例えば〝極肉〟はリブロースステーキ、和牛塩ハラミ、極みのタン、究極の厚切りタン、特上炙りロース、角切り和牛……。
思わず「選べないよ!」と漏らしてしまいたくなるくらい、心憎いメニュー構成だ。
続く〝霜降り〟はリブマキ、リブ芯、リブかぶりというリブづくしで肉好きが二度見するようなマニアックな構成で、〝赤身〟も上ロース、ロース、和牛切り落とし。どちらも潔い3種に絞り込まれている。
和牛は「黒毛和牛A5」を標榜しているが、脂ばかりが多い和牛ではない。ほどよいサシと塩梅のいい調味が力強い肉の味をグッと引き上げてくれる。
例えば「特上炙りロース」などはうちももの軟らかい部分を薄切りにして提供する。角切り和牛もていねいな包丁仕事がなされた赤身が見目麗しい。
お値打ちを目指すなら小欄が常に推している、和牛の切り落としやMIXホルモンがいい。こうしたメニューは同じ個体から切り出しながら、他の単品メニューとして出すには形が少し調っていないような部位が多めに盛られている。「花より団子」派にはこれ以上ない一皿だ。
そしてさりげなく好印象なのが「白米」を大切にしているこことだ。この店では水量を精妙に調整して小まめに炊き上げている。だから肉のともでありながら、箸休めにもなるという焼き肉最高の伴侶となっている。
西口の線路沿いの坂の上に、清潔感と気兼ねない大衆感を備えた焼き肉店が参入してくれた。
恵比寿での店選びの悩みがひとつ減った。
■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しい。新著「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社刊)発売中。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。