「米中半導体戦争」が激化している。米政府は23日、中国の非先端半導体(レガシー半導体)が米国の競争力や供給網に悪影響を与えているとして調査を始めると発表した。さらに来年1月以降はドナルド・トランプ次期米大統領が、半導体産業の国内回帰や対中規制の強化を加速させるのは確実だ。一方、中国の習近平政権は米半導体大手エヌビディアを独禁法違反の疑いで調査し、半導体材料の対米輸出を禁止するなどの対抗措置に出ている。識者は、日本も大型再編など「半導体大国」復活に向けた取り組みが必要だと指摘する。
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旧世代の技術で作られるレガシー半導体は、自動車や家電、医療機器などに幅広く利用されている。米政府は中国の半導体政策で不自然に安い商品や過剰な生産集中が生まれていると指摘した。
レガシー半導体の分野で中国がシェアを拡大させていることに、米国は安全保障上のリスクを懸念している。米商務省は、米国の政府や防衛産業で使用されるほとんどの製品に、少なくとも1つの中国製半導体が含まれている可能性が高いと公表した。
米政府は中国から輸入する半導体への制裁関税を、来年1月に現行の25%から50%に引き上げると発表済みだ。また、軍事転用できる人工知能(AI)などに使う半導体の開発能力向上を防ぐ目的で、先端半導体関連の輸出規制も強化している。先端半導体では米国や台湾、韓国勢が強いが、中国も追い上げを急いでいることが背景にある。
一方、中国国家市場監督管理総局はエヌビディアを独禁法違反の疑いで調査を始めた。エヌビディアは中国向けに性能をやや落とした半導体の販売を継続してきたが、米国への報復の意図で同社をやり玉に挙げたとみられる。
米国が禁輸しているエヌビディアの先端半導体も第三国などを経由して中国に入っているとみられる。このため米商務省はエヌビディアの製品が過去1年間にどのように中国に渡ったかを調査するよう同社に要請した。米ネットメディア「ジ・インフォメーション」が19日、報じた。
経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「米国の対中強硬の動きは超党派なので、トランプ政権でますます『脱中国』が加速すると予想される。中国はAIの開発に力を入れているが、国内の半導体企業はエヌビディアの技術には及ばない。同社への締め付けは、むしろ自らの痛手になりかねないのではないか」とみる。
米国の半導体産業を強化するためにバイデン政権が重視したのは国内事業者への補助金政策だった。
トランプ氏の狙い
だが、トランプ氏は別の手を使う。10月に人気ポッドキャスターのインタビューに答えたトランプ氏は「半導体の輸入品に高関税を課せばいい」「工場建設のために彼らに資金を渡す必要はなかった」との見解を示した。「タリフマン(関税男)」を自認するトランプ氏は、関税を引き上げることで米国内に半導体産業を引き寄せ、中国を突き放す狙いだ。
平井宏治氏「『日米台』での供給網再編が必要」
米中半導体戦争が日本に及ぼす影響は小さくない。
熊本県菊陽町に進出した台湾積体電路製造(TSMC)は、稼働中の第1工場に加え、第2工場も来年1~3月に建設開始を見込む。「台湾有事」をにらんで、同社の生産拠点が台湾に集中していることは各国や投資家からリスクとみられ、日本や米国、ドイツが誘致を急いでいる。
平井氏は「従来の日本は中国に半導体製造装置や材料を輸出しており、現在でもレガシー半導体については日中間で供給網が構築されてきた。トランプ次期政権が対中関税を強化すれば、中国は製品の販路を日本市場に見いだすかもしれない。だが、対中強硬路線に歩調を合わせなければ日本も制裁や報復関税の対象になりかねない。TSMCを軸に『日米台』での供給網を再編するなど、トランプ政権と渡り合える環境づくりが必要だ」と注意喚起する。
日本が強みとするのはパワー半導体だ。英調査会社オムディアによると、23年パワー半導体の世界シェアは、欧米勢が1~3位を占めるが、4位に三菱電機、5位に富士電機、8位にローム、9位に東芝が入っている。
23年に経産省はパワー半導体の設備投資に補助金を出す制度を始めたが、「2000億円以上の投資」を条件とした。1社単独での投資を難しくして再編を促す狙いだ。
平井氏は「パワー半導体で世界シェア1位のドイツのインフィニオン・テクノロジーズも再編によって生まれた。日本国内のパワー半導体は各社それぞれが技術的に強みを持っており、世界との競争力を十分に持つことができる」と力説した。