衆院選後の政界が混乱している。単独はおろか、公明党との連立与党でも過半数(233議席)を維持できなかった自民党は、国民民主党と政策ごとに連携する「部分連合」を模索している。予算案や法案の成立に野党の協力が必要となるためだが、成否は定かでなく、安定した政権運営への道を見いだせていない。
自民党にとっては、7日に予定されている両院議員懇談会が1つのヤマ場となる。
石破茂首相(自民党総裁)率いる執行部は、衆院選で誤った戦略を打ち出して惨敗した。派閥裏金事件ですでに党の処分を受けた衆院議員の一部を改めて「非公認」「比例重複を認めず」とした結果、「裏金問題」がことさらにクローズアップされ、問題を追及する野党を勢いづかせてしまった。
自民党の歴代首相は、「中間テスト」的位置づけの参院選に惨敗したときでも責任を取って身を引いてきた。橋本龍太郎首相は1998年7月12日の参院選で大敗すると翌日に退陣を正式表明し、安倍晋三首相も2007年7月29日の参院選で敗北を喫した後、同年9月12日に辞任を発表した。
石破首相は今回、「政権選択」の意味合いが強い衆院選で「国民の信」を得ることができなかった。「国政に空白をつくることを避ける」という事情はあるにせよ、「国民の審判」を無視した「居座り」はいかがなものか。石破首相は就任前、歴代首相にケジメを求め続け、自民党総裁選や衆院選では「ルールを守る」と強調した。自らが勝敗ラインに掲げた「自公与党での過半数維持」を達成できなかったのに、首相の座にとどまろうとするのは、自己矛盾ではないか。
7日の両院議員懇談会は本来であれば、石破首相や森山裕幹事長に対し、衆院選での戦略ミスや責任の取り方について、出席者から厳しい意見が出てしかるべきだ。単なる「ガス抜きの場」になったとしたら、自民党の状況は深刻だ。その意味で、自民党に自浄作用があるかを試される場となる。
自民が進める国民民主との協議にも課題が残る。
国民民主は、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の金額引き上げを求め、玉木雄一郎代表は10月31日、「全くやらないなら当然、協力できない。その時は予算も法律も通らない」と述べ、牽制(けんせい)した。
「103万円の壁」問題を含む国民民主の「手取りを増やす」という政策はぜひ実現すべきテーマだと思う。ただ、具体的財源をどうするかについて財務省側の抵抗が予想されるだけに、自民と国民民主の間に政調レベルの常設機関を設け、実現に向けた丁寧なやり取りの機会を増やすべきだったと感じる。
多数派工作のプロセスとしても、自民は早い段階で28議席の国民民主に絞り込んだが、立憲民主党(148議席)や、日本維新の会(38議席)への働きかけをもっと真剣に進めてもよかったのではないか。
衆院選では、参政党が3議席、日本保守党が3議席を獲得するなど、新興政党が一定の支持を得た。これは既成政党に対する国民の忌避感が強まっていることを意味する。
各党が訴える政策の最大公約数をどうすれば実現できるのかという観点から、与野党が話し合う新たな枠組みやシステムをつくるべきではないか。過半数を占める政党がなくなったという混乱期を有効に活用してほしい。
■岩田明子(いわた・あきこ) ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。22年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。