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ドクター和のニッポン臨終図巻 落語家・桂雀々さん 貧困生活に耐え…苦い経験が生んだ迫力ある落語 「依存症」への理解に一翼を担った稀有な噺家

zakzak by夕刊フジ 2024年12月23日 15時30分

日本で一番多い「心の病」とは何か。答えは依存症です。アルコール、ギャンブル、薬物、セックスなどの依存症は昔から知られていますが、最近はゲームやスマホ依存症と診断される人も増えています。心が弱いからなるわけではありません。脳の病気なので治療が必要。根性論では治せないのです。こうした依存症への理解を深めるために一翼を担った稀有(けう)な噺家(はなしか)さんがいました。

人懐っこい笑顔と大振りのアクションが人気だった桂雀々さん。11月20日に茨城県内の病院で死去されました。享年64。死因は糖尿病からの肝不全との発表です。

雀々さんは10月下旬、茨城県内のゴルフ場でプレー中に倒れて緊急搬送。集中治療室に入りました。一時は回復し一般病棟に移り、復帰を目指してリハビリに励んでいたものの、再び体調を壊して帰らぬ人となりました。

報道では「急死」や「突然死」という見出しも躍りましたが、長年、持病の糖尿病を治療されていたようです。

親友でタレントの北野誠さんはラジオ番組で、「雀々さんは、(昨年2月に急死された)笑福亭笑瓶さんのお通夜に出席したとき、インスリンを打ちながら『γ(ガンマ)―GTPが1200あったのをこの1年で250まで下げた』とノンアルのハイボールを飲みながら話していた」と報告されています。

γ―GTPとは肝臓の解毒酵素の一つで、タンパク質を分解・合成します。肝機能の状態を知るための大切な指標で、アルコールの影響を大きく受けることで広く知られています。基準値は男性が50以下、女性が30以下。糖尿病のある人は、脂肪肝になりやすいため、高い数値がでることがあります。雀々さんは1200を250まで下げたといいますから、相当な努力をされていたのでしょう。それでも肝不全を防ぐことができなかったのは残念です。

さて、なぜ雀々さんは依存症の啓発運動に力を入れていたのか。

実の父親がギャンブル依存症で借金を背負ったために、辛い少年時代を送ったからだそうです。借金取りが毎日のように家に訪れて、「夜は賑やかだった」と笑いにしていたことも。生活に疲れてしまった母親が、ある日蒸発。さらに父親も蒸発してしまい、近所の人たちに世話になりながら、一人で暮らしていたこともあったといいます。そんな壮絶半生を綴(つづ)った本のタイトルは『必死のパッチ』(幻冬舎)でした。僕も必死のパッチで貧困生活に耐えてきたので共感を覚えました。幼い頃からさまざまな人間模様を見た子は、観察力の鋭い大人になります。苦い経験を生かした、迫力ある雀々さんの落語をもっと見ていたかったです。

■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。公益財団法人日本尊厳死協会前副理事長。映画『痛くない死に方』『けったいな町医者』をはじめ、出版やインターネット配信などさまざまなメディアで長年の町医者経験を活かした医療情報を発信する傍ら、ときどき音楽ライブも行っている。

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