日銀は過去25年間の非伝統的金融政策手段の効果を分析した「多角的レビュー」を公表した。大規模金融緩和に対する評価は妥当なのか。
日銀は2013年以降、黒田東彦(はるひこ)前総裁のもとで2%の物価安定目標を掲げ、大規模金融緩和策を行うことによって企業や個人の「インフレ期待」に働きかけてきた。この効果について「一定の影響を及ぼしたとみられる」としている。一方で「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方の転換は容易ではなく、期待への働きかけだけで物価上昇率を2%にアンカーするほどの有効性はなかった」と指摘した。
こうしたレビューに対し、大規模金融緩和に肯定的な人から「財政政策との協調について踏み込んだ議論がない」と言われ、否定的な人からは「金融機関の収益が悪化する副作用の分析が弱い」と言われている。
日銀は大規模金融緩和策が経済・物価に与えた影響について「円高傾向の反転といった外部環境の変化とも相まって、経済・物価を押し上げる方向に作用したと考えられる」とし、マクロモデルで実質国内総生産(GDP)を1・3%から1・8%、消費者物価の上昇率を0・5%から0・7%分、それぞれ押し上げたと分析している。
日銀は13年に大規模金融緩和策を導入した際、「2%の物価安定」を「2年程度の期間」を念頭に置きながら、できるだけ早期に実現することを想定していた。これについて日銀は「期待への働きかけの難しさなどから、大規模な金融緩和は、導入当初に想定していたほどの効果は発揮しなかった」と評価した。
以上の日銀のレビューを見る限り、大規模金融緩和策の方向性は良かったが、もっと「大規模」にやればよかったという結論しか出ない。おっかなびっくりやって、不徹底だったわけだ。ゴルフで言えば、デフレというバンカーにはまり、グリーンの方向にクラブを振ったが、手加減をしすぎて届かなかったという光景が浮かぶ。
そういうと、金融機関の収益への副作用を恐れたという意見が出てくるかもしれない。マクロ経済的に正しい方向で、ミクロ的に不都合が出るのであれば、救済すべきは救済したらいい。マクロ政策として方向性が良ければ、救済コストは微々たるものだ。個別業界の事情を理由として正しいマクロ経済政策をやらないというわけにはいかない。
ちなみに、日銀のレビューでは、マクロ経済の成果として、雇用の創出について言及していないが、これこそ、もっとも誇るべき成果である。本コラムの読者であれば、ご存じだろうが、金融政策は物価を安定させるだけではなく、雇用をも安定させるので、雇用政策でもある。この点に言及しないのであれば、画竜点睛(てんせい)を欠くレビューになってしまう。
「副作用」と言う人ほど、「雇用」に言及しないのは、金融政策の本質を理解していないのだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)