Infoseek 楽天

森永康平の経済闘論 「令和のコメ騒動」にみる政策の失敗 備蓄米を放出する準備があると言っておけば「パニック買い」抑えることができた

zakzak by夕刊フジ 2024年9月12日 6時30分

ここ1カ月ぐらい、スーパーでコメが買えないと話題になっており、「令和のコメ騒動」という言葉まで目にするようになってきた。実際に都内のスーパーに行ったところ、米の棚には何も並んでおらず、空の棚を前に米が買えないことを嘆く客も目にした。

なぜコメが買えなくなっているのか、ニュースを見てみると、「インバウンド(外国人観光客)需要」や「異常気象」がその理由として挙げられていた。ニュースを見た直後は納得してしまったが、よく考えてみると、訪日外客数はコロナ前の水準を少し超える程度になっただけであり、コロナ前にコメ不足が起きたかというとそのようなことはなかったし、異常気象も今年だけに限ったことではない。そう考えれば、他にも理由がありそうだ。

先月下旬に開かれた坂本哲志農相の記者会見によると、前述の2つ以外の理由として、在庫が最も少なくなる端境期に、台風や南海トラフ地震臨時情報が発出されたことにより買い込む人がいたことを理由として挙げていた。必要な量だけを買うなど、落ち着いた購買行動を求めていたが、これはつまりコロナ禍におけるマスクや、オイルショック時におけるトイレットペーパーのように、一種のパニック買いが背景にあるということなのだろう。

ここで不思議だったことが、会見では政府の備蓄米の放出については「市場への影響が大きい」として慎重な姿勢を示したことだった。実際に備蓄米を放出しなかったとしても、状況に応じて備蓄米を放出する準備があるとだけ言っておけば、パニック買いを抑えることができただろう。年間出荷量の4割程度が出回る9月まであと数日というタイミングでの会見だったのだから、実際に備蓄米を放出する事態にはならないことぐらい容易に想像できそうなものだが。

そもそも、日本では減反政策を続けており、2018年に廃止したとはいうものの、生産を減らせば補助金を出すという仕組みは残されていて、米の生産量は減少し続けている。そのような政策をとりながらコメ不足だと騒ぐのはおかしな話だ。昨今では経済安全保障が声高に叫ばれているが、そもそも食料の自給率が低い時点で、いくら兵器を買いそろえても、有事の際に海上封鎖されてしまえば意味がない。

今回の「令和のコメ騒動」を契機として、食料という観点からの経済安全保障策も真剣に議論してほしいものだ。

■森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。

この記事の関連ニュース